第150回 てなもんや大騒動
平成七年七月(1995)
大井 大井武蔵野館
私の小学生時代の後半から中学生にかけて、TVで人気があったのが藤田まこと主演の『てなもんや三度笠』である。長谷川伸の名作『沓掛時次郎』ならぬあんかけの時次郎。泉州の出で大阪弁丸出し。腕も度胸もなく、女に弱い。へらへらと調子よく、相棒の小坊主珍念と旅を続けている。この無知蒙昧な三流の渡世人を顔つきから身のこなしまで藤田まことが巧みに演じたのだ。
映画版は東映で二回、東宝で三回作られており、私が映画館で観たのは東映の『てなもんや三度笠』と東宝の『てなもんや大騒動』であるが、大騒動が面白い。
時代は幕末、時次郎は勤皇の志士に憧れて京都へやって来る。そこで財津一郎の坂本龍馬に弟子入りしたり、芦屋雁之助の近藤ひきいる新選組に入隊したり、長州藩士に頼まれ、尾張で谷啓の西郷吉之助と会談する龍馬に密書を届けたり。途中でやくざの出入りの助っ人を頼まれたり、野川由美子の密偵に財布を盗まれたりといろいろある。時代違いの鼠小僧で南利明も出てくる。歌と笑いに幕末の有名人をからめたバラエティ時代劇である。
TVでこの番組が放送されていた頃、毎回「あたり前田のクラッカー」と見栄を切る藤田まこと、私はただのワンパターンのお笑い芸人としか思っていなかったが、実はすごい役者だった。この映画でも夢で月形半平太になる場面、立派な武士である。
六十年代末期、藤田まことがだんだんTVに出なくなって寂しい思いをした。遠藤周作原作のTVドラマ『大変だア』や映画『日本の青春』で主役を演じてはいたが、どちらも地味な作品で『てなもんや三度笠』のようなヒットはしなかった。
それが『必殺仕置人』で颯爽と登場。中村主水である。
江戸の町奉行所同心。役所では昼行燈と呼ばれ、妻と姑には頭があがらない。が、実は剣の達人で密かに悪人たちを成敗している。役所や家庭では敬語を使うが、仕置きの仲間たちとはべらんめえ。下級の直参御家人は江戸っ子なのだ。あのへらへらした大阪弁のあんかけの時次郎とはまったくの別人だった。
てなもんや大騒動
1967
監督:古沢憲吾
出演:藤田まこと、白木みのる、谷啓、伴淳三郎、野川由美子、伊東ゆかり、磯村みどり、財津一郎、芦屋雁之助、久保明、いかりや長介、南利明