第151回 さらば愛しの大統領
平成二十二年十月(2010)
六本木 アスミックエース試写室
大阪で生まれ育ったせいか、私は子供の頃からTVのお笑い番組が大好きだった。幼児期から関西特有の漫才、新喜劇、落語、バラエティ、大阪のTV局から流れるそれらをほぼ毎日のように見続けていた。
一九八〇年代に漫才ブームがあり、吉本系の漫才が大流行し始めた頃から、私の好まない芸風の人気者が続々と出てきて、まったく笑えなくなり、結局、私はTVのお笑い番組を見限った。今ではTVさえ全然見ない。
TVは見ないが映画は観る。そして新作の中にも、大笑いできる日本映画があるとうれしくなる。『さらば愛しの大統領』は久々に私が子供の頃に好きだった大阪のアホな笑いがいっぱい詰まっていた。
いきなり臨時ニュースから始まる。芸人のナベアツが現職を破り大阪府知事選で当選を果たすという快挙。だれに投票してもいっしょなので、面白半分にアホな芸人に入れたという大阪府民たち。レポーターが取材に選挙事務所を訪れると、当選したばかりのナベアツが、インタビューに答えながら全裸でバック転をする場面が生放送で流れてしまう。
ナベアツは公約通り、大阪を日本から独立させ、大阪合衆国大統領を名乗り、大阪の独立を認めない日本国政府は暗殺団を大阪に送り込む。これら暗殺団からナベアツ大統領を守るのが宮川大輔とケンドーコバヤシふんする大阪府警のアホ刑事コンビ。
最初から最後まで百パーセント、アホなギャグだけ。
明石家さんまや島田紳助やダウンタウンあたりが出てきた頃から私は吉本をまったく見なくなった。私はアホな芸が大好きだが、図々しい芸人が偉そうにしゃべっているだけの手抜きTVは嫌いである。あんなもの、芸でもなんでもない。そう思ってTVを無視していたが、実際にはけっこう面白い芸人もいることを改めて映画で知った。
真面目な人は最初から、こういう作品は観ないだろうが、ここまでアホに徹した大阪のアホ映画、私はたまらなく好きなのである。
さらば愛しの大統領
2010
監督:柴田大輔
出演:宮川大輔、ケンドーコバヤシ、吹石一恵、釈由美子、世界のナベアツ、大杉漣、志賀廣太郎、前田吟、宮迫博之、仲村トオル