第145回 世にも面白い男の一生 桂春団治
平成二十年七月(2008)
神保町 神保町シアター
松竹新喜劇の演目に『桂春団治』があり、長谷川幸延原作の小説を館直志が戯曲化したもので、館直志とは渋谷天外(先代)のペンネームである。渋谷天外著『わが喜劇』(三一書房)に戯曲が掲載されており、松竹新喜劇による初演は終戦の翌年の昭和二十六年となっている。
舞台では何度も繰り返し上演され、私は昭和六十二年、新橋演舞場で観劇した。主演は藤山寛美であった。
映画化は昭和三十一年『世にも面白い男の一生 桂春団治』のタイトル、舞台同様に渋谷天外が脚色している。主演は森繁久彌、『夫婦善哉』の一年後であり、淡島千景や田中春男や田村楽太がそのまま出ている。
主人公の初代桂春団治は明治末から昭和初期まで活躍した実在の人気落語家であった。春団治が森繁で女房のおたまが淡島千景、しっかりものの女房と駄目男というのも大阪ドラマ『夫婦善哉』に通じる。
春団治に入れあげて店を潰す大店の後家が高峰三枝子、春団治にころっとだまされる素人娘が八千草薫、そして春団治専属の人力車夫(今なら自家用車の雇われ運転手)が『夫婦善哉』でてんぷらを揚げていた田村楽太。
エンタツ・アチャコで一世を風靡した横山エンタツが最後に医者の役でちらっと出ていた。エンタツは軍医の息子だったそうで、そのエンタツの息子が吉本新喜劇で人気のあった花紀京。
映画の出来でいうと、このあと藤山寛美主演、マキノ雅弘監督の東映版のほうがいいのだが、私としては、好きな森繁が出ているだけでうれしい。こんな珍しい作品を上映してくれた神保町シアターにも感謝である。
世にも面白い男の一生 桂春団治
1956
監督:木村恵吾
主演:森繁久弥、淡島千景、高峰三枝子、八千草薫、田村楽太、田中春男、浮世亭歌楽、西川ヒノデ