第128回 八百万石に挑む男
平成十三年六月(2001)
京橋 フィルムセンター
『大岡政談』で有名な天一坊事件である。
賭場で銭をすった遊び人風の若者が、金の代わりにと短刀をぽんと投げる。賭場の用心棒赤川大膳がそれに目を止め、別室へ呼んで話を聞く。葵の紋の短刀とは穏やかではない。若者は御墨付まで所持しており、それにはこの者を自分の子と認めると書かれている。署名は紀州の徳太郎。後に兄の死で紀州藩主となり、とんとん拍子に江戸の将軍にまで昇りつめた八代吉宗公。その若い頃の署名らしい。
若者は幼い頃に預けられていた寺で火災の際、その短刀と書付を持ち出していた。紀州家に女中に出ていた女が懐妊し、実家に帰って出産したが、産後のひだちが悪く、母子ともに死亡した。女の母親は嘆き悲しみ、どこからか孫にそっくりの子供を連れて来て育てていた。老婆が死亡したので、その子を寺で引き取り育てた。それがおまえだと言われたが、なんだか自分が本当の御落胤のような気がして、短刀と書付を持ち出して来たのだという。
浪人の赤川大膳は同様の浪人である藤井右京や常楽院の住職天忠と相談し、大芝居を売って、この贋御落胤を売り出し、天下を取ろうと計画する。それに加わるのが元京の公家侍であった山内伊賀亮である。
仰々しい行列を仕立てて江戸へ打って出、そこで幕府の老中松平伊豆守や町奉行大岡越前守と対決する。
最後は宿に訪ねて来た小僧仲間の雲水に、あなたは本物だったが、和尚様がその身を気づかってわざと偽物だと作り話をしたのだと知らされ、将軍家の名誉と秩序のために、偽物として処刑される。というところが講談とは別の結末。
市川右太衛門の伊賀亮、中村賀津雄の天一坊、河原崎長十郎の大岡越前。脚本は橋本忍である。
八百万石に挑む男
1961
監督:中川信夫
出演:市川右太衛門、中村賀津雄、桜町弘子、河原崎長一郎、水島道太郎、仲谷昇、柳永二郎、山村聰、河原崎長十郎