シネコラム

第120回 無頼漢

第120回 無頼漢

昭和五十三年十二月(1978)
新橋 新橋第三劇場

 

 江戸城に仕える御数寄屋坊主の河内山宗俊が悪党仲間と組んで悪事を働くピカレスク御家人くずれの片岡直次郎、吉原の花魁三千歳、遊び人暗闇の丑松、浪人で剣客の金子市之丞、悪徳商人の森田屋清蔵。六人の無頼漢。
 河内山の悪行は講談になり、芝居になり、映画や小説にも多数登場する。
 黙阿弥の歌舞伎『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』と講談の『天保六歌撰』を合わせて、寺山修司が脚本を書いた異色時代劇が『無頼漢』である。
 主人公は母親とふたり暮らしの直次郎、芝居小屋など悪所に出入りする女たらしのごろつき。これが吉原で森田屋清蔵と三千歳を張り合う。
 仲代達矢の直次郎に丹波哲郎の河内山を中心として、三千歳に岩下志麻、丑松に小沢昭一、森田屋に渡辺文雄、金子市に米倉斉加年という六花撰。それに直次郎の母が市川翆扇、老中水野越前守が芥川比呂志
 河内山が寛永寺の使僧に化けて松江出雲守をゆするクライマックスは歌舞伎の黙阿弥通りだが、松江侯の中村敦夫、北村大膳の垂水悟郎、数馬の蜷川幸雄、浪路の太地喜和子と新劇系の個性派が並ぶ。
 庶民を弾圧する天保の改革を背景に、一九七〇年頃の学生運動を重ねたような百鬼夜行。正統な時代劇というより当時流行のアングラ演劇風。
 直次郎が母親を捨てに行くのは、後に『田園に死す』でも繰り返される寺山おなじみのパターンである。


無頼漢
1970
監督:篠田正浩
出演:仲代達矢岩下志麻小沢昭一丹波哲郎渡辺文雄米倉斉加年山本圭垂水悟郎中村敦夫、浜村純、藤原釜足蜷川幸雄太地喜和子

 

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