シネコラム

第86回 フクロウと子猫ちゃん

第86回 フクロウと子猫ちゃん

昭和五十年八月(1975)
大阪 中之島 SABホール

 

 出会いから反発しあっている男女が、いつしか惹かれあって、最終的にはハッピーエンドになるというのが、ラブコメディのひとつの典型である。その過程をはらはらどきどきしながら観客は見守るわけだ。男女の反発の理由は、たいていは価値観の違いにあるが、その違いがかえってお互いの魅力ともなる。
 バーブラ・ストライサンドジョージ・シーガルのコメディ『フクロウと子猫ちゃん』は、ブロードウェイの舞台劇を映画化したもの。
 フェリックスは自称作家。いつも気取ったしゃべり方。夜中にタイプライターを叩くので、アパートの隣人たちから迷惑がられている。
 同じアパートに住むドリスは自称女優だが、相当にけばけばしく、ときどき部屋に男を引き入れている。
 この二人がひょんなことから出会って、お互いが引き起こしたトラブルから、ふたりそろってアパートを追い出され、それぞれ相手をバカにしながら、とうとう一夜をともにする。
 フェリックスは作家であることが、ドリスは女優であることがよりどころなのだが、実際はそうではない。彼は作家志望の書店員であり、彼女はかつて女優を夢見ていたが、今は娼婦で稼いでいる。なりたいものにはなれなかった。が、あるがままの自分は認めたくない。だから見栄を張る。コメディでありながら、そこがこのドラマの辛口なところだ。
 エレベーターのモニター画像に映る自分を見てドリスが言う。ほら、あたし、テレビに出てるわ。
 ビル・マンホッフの原作は、わが国でも翻訳され、上演された。八〇年代の半ば、池袋のサンシャイン劇場での舞台、男は下條アトム、女は夏木マリの二人芝居だった。

 

フクロウと子猫ちゃん/The Owl and the Pussycat
1970 アメリカ/公開1971
監督:ハーバート・ロス
出演:バーブラ・ストライサンドジョージ・シーガル

 

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