第85回 恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ
ボーとジェフのブリッジス兄弟扮するザ・ファビュラス・ベイカー・ボーイズは、あまり売れないピアノ弾きの兄弟。これにミシェル・ファイファーの歌手スージーが加わり、また去って行くというだけのストーリーだが、三人の息がぴたりと合って、洒落た舞台劇を思わせるような出来ばえである。
兄弟は幼い頃から三十年以上もピアノを弾いていた。プロになってからも十五年になる。弟のジャックは無口な芸術家肌で、人当たりのいい兄のフランクがマネージャーも兼ねている。仕事はレストランやホテル、弟はそういう仕事に満たされていない。が、兄にはさからわない。十五年間他のアルバイトもせずにピアノ一本で生活してこられたのは兄のおかげだと知っているからだ。
だが、ふたりでピアノを弾くだけの仕事は先細り。そこで歌手を加えることにした。オーディションに集まってきた女性たちはそろいもそろって下手くそだったが、ひとり遅れてきたスージーだけが抜群で、彼女を加えることで仕事はどんどん軌道に乗る。やがてジャックとスージーは愛し合い、大きなホテルでの大晦日のショー。
それを最後に三人の関係も破局へと向かう。スージーはコマーシャルの仕事に引き抜かれ、兄弟は素人の慈善ショーの惨めな仕事のあと殴り合い、不満をぶつけあう。
ピアノのうまい人間はごまんといる。が、それを職業にする人間はそのうちのごくわずかである。そして、その道で大成功を収める人間は数えるほどもいないのである。これはピアノに限ったことではないが。
郊外にフランクを訪ねたジャック。二人はしばし、少年時代に戻ってピアノを弾く。フランクは妻子を養うために近所の子供にでもピアノを教えるだろう。スージーはつまらないCMソングを歌っている。あの頃はよかった、思うようにいかないのが人生だと彼女は言うが、後悔はしていない。ジャックは安酒場でひとりピアノを弾き続けるかも知れない。
恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ/The Fabulous Baker Boys
1989 アメリカ/公開1990
監督:スティーブ・クローブス
出演:ミシェル・ファイファー、ジェフ・ブリッジス、ボー・ブリッジス、ジェニファー・ティリー