シネコラム

第82回 新しい人生のはじめかた

第82回 新しい人生のはじめかた

平成二十二年十月(2010)
飯田橋 ギンレイホール

 

 私は若くはない。が、恋愛映画を観れば、自然と若い主人公に感情移入して、胸がときめく。主人公が中年や初老の男性なら、なおのこと。
『新しい人生のはじめかた』は初老のアメリカ人男性が旅先のロンドンで中年女性と出会って恋に落ちる大人のラブコメディ。シリアスな悲恋ものよりは、やっぱりラブコメディが私は好みである。
 ハーヴェイは落ち目のCM作曲家。離婚した妻のもとで育った娘がロンドンで結婚式を挙げることになり、久々に娘に会えると喜んで出かけたのに、新郎新婦の家族とは別の安ホテルにひとり泊らされ、娘からは式のヴァージンロードは継父と歩くと告げられる。酔って式をぶちこわすなと、別れた妻には釘を刺される始末。
 式の間も仲間はずれにされ、披露宴になんか出るもんか。アメリカの仕事に戻ろうとすると、渋滞で飛行機に乗り遅れ、会社に電話すれば若手の曲を使うのであんたはお払い箱だと言われる。踏んだり蹴ったりで空港のバーで飲んでいると、ふと目に留まったのがケイト。彼女も落ち込んでいる。空港の職員で乗客のアンケート調査が仕事。中年で独身。母親との間に問題もある。いつしか、ふたりは言葉を交わし、ケイトはハーヴェイの不運話を聞いて、言う。
 あなたの勝ち。
 で、意気投合したふたり。ハーヴェイは娘の披露宴にケイトを連れて出席。翌日にまた逢う約束をするのだが……。
 当時七十過ぎのダスティン・ホフマンがハーヴェイ、役柄としては六十ぐらいか。ケイトが貫禄たっぷりのエマ・トンプソン。小柄なハーヴェイと大柄なケイトが公園を散歩する場面が素敵。中年になっても、初老になっても、老人になっても、心ときめくような経験、したいものだ。

 

新しい人生のはじめかた/Last Chance Harvey
2009 イギリス/公開2010
監督:ジョエル・ホプキンス
出演:ダスティン・ホフマンエマ・トンプソン、アイリーン・アトキンス、キャシー・ベイカー、ジェームズ・ブローリン、リチャード・シフ