シネコラム

第81回 七年目の浮気

第81回 七年目の浮気

平成四年十月(1992)
池袋 文芸坐

 

 これはもう、当時セックスシンボルと称されたマリリン・モンローの魅力が溢れんばかりである。
 出版社に勤めるリチャードは結婚七年目にして一度も浮気の経験はない。が、空想癖があり、酷暑の夏、妻と息子を避暑地に送り出したあと、あれこれと想像する。久々の独身生活で女性にもてたいという願望。会社の秘書や病院の看護婦や妻の友人との浮気を空想してにやけていると、目の前に植木鉢が落ちてくる。それがきっかけで二階にいる若い美女と知り合う。これが、マリリン・モンロー。思わず、うっとり。
 リチャードは彼女を映画に誘う。うきうきしながら映画館から出たところ、地下鉄の通風孔から吹きあがる風でモンローのスカートがまくれあがる場面は何よりも有名。ちなみにこのとき、ふたりが観た映画が『大アマゾンの半魚人』なのだ。
 彼女の部屋には冷房がないという。暑くて眠れないとき、お風呂で湯船に水を入れて裸で寝ようとしたのだが、蛇口から水がぽたぽた落ちる。それで足の指で蛇口を押さえたら、抜けなくなった。風呂場の電話で水道屋に状況を説明したら、日曜日なのに、あっという間に飛んできてくれた。でも、恥ずかしかったわ。
 リチャードがその場面を想像して、そうだろうねえ。ええ、足の爪にマニュキアしてなかったんですもの。
 自室をがんがん冷やして、リチャードは彼女を招待する。ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番を聴かせれば、女はいちころだ。そこでレコードをかけて待っている。部屋に入ってきた彼女、これクラシックね。だって歌がないもの。
 空想をふくらませるものの、結局、彼は内気で気のいいだけの男なのだ。彼女とふたりきりになっても、なにもできない。だが、彼女は言う。パーティなどで二枚目を鼻にかけた男より、隅で目立たない心の優しい人のほうがずっと好き。そして、あなたの奥さんはもっとやきもちを焼いてもいいと、彼にキスしてくれる。ああ。

 

七年目の浮気/The Seven Year Itch
1955 アメリカ/公開1955
監督:ビリー・ワイルダー
出演:マリリン・モンロー、トム・イーウェル、イヴリン・キース、ソニー・タフツ、オスカー・ホモルカ、マルグリット・チャップマン