シネコラム

第74回 西遊記

第74回 西遊記

昭和三十五年(1960)
大阪 長瀬 長瀬東映

 

 学齢に達する前にかなりの映画を映画館で観ているはずなのに、ほとんど特定できない。小学校高学年になってからはタイトルも内容もだいたいは憶えているのだが。
 東映動画の『西遊記』は小学一年生で祖母と観た。この映画の記憶が鮮明なのは、その後、TVで繰り返し放映されたからだろう。
 石から生まれた石猿が猿族の王となり、寿命を克服するため仙人のもとで仙術を身につけ、斉天大聖となって天界の神々と戦い、釈迦如来の掌から飛び出せずに岩山に閉じ込められる前半。
 三蔵法師の弟子となり、天竺を目指し、猪八戒沙悟浄と出会い、最後は火焔山で牛魔王と決戦する後半。
 悟空誕生から天界を騒がせるまでが丁寧に描かれているのは、さすが原案が手塚治虫だけのことはある。
 しかもミュージカルとして、猿たちや妖怪たちが歌って踊るのだ。
 大人になってから名画座エノケン三木のり平西遊記も観たが、やはり東映動画が一番よくできていると思う。
 なにしろ、沙悟浄は河童ではないし、三蔵法師もちゃんと男である。
 沙悟浄は天界で罪を犯した天帝の側近、捲簾大将が下界の大河に追放されて水怪となったもので、そもそも中国に河童など存在しない。ましてや、唐から天竺までの長旅を果たした史実の玄奘三蔵がかよわい女であるわけがないのだ。
 昭和五十三年にTVの西遊記夏目雅子三蔵法師を演じて以後、日本で作られる西遊記の三蔵はほとんど女優が演じるようになった。これは異常だし嘆かわしいことである。それ以前の西遊記はTVも映画も三蔵は男の俳優が演じている。当然ながら。
 三蔵法師は女だと本気で信じている人たちが映画界や演劇界に実際にいて、びっくりしたことがある。私は女の三蔵なんて、絶対にいやだ。
 せめて東映動画の『西遊記』ぐらいは観て勉強してほしい、と切に願う。

 

西遊記
1960
監督:薮下泰司、原案;手塚治虫、脚本:植草圭之助
アニメーション

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