シネコラム

第73回 猿の惑星・創世記

第73回 猿の惑星・創世記

平成二十三年十月(2011)
大泉 Tジョイ大泉

 

 一九六八年の最初の『猿の惑星』は、メイキャップがすごかった。ロディ・マクドゥール、キム・ハンター、モーリス・エバンスといった名優たちが、特殊メイクで猿の顔になり、演技する。だから、体格は人間だし、顔は人間よりもかなり大きい。それが気にならないくらいに、猿役の俳優の演技がすばらしかった。
 二〇一一年に始まった新シリーズの猿は特殊メイクではない。コンピュータグラフィックスの技術で、本物そっくりのチンパンジーやゴリラそのものを描き、俳優が演技した顔だけを組み込んでいる。猿に限らず、動物、怪獣、乗り物、景色、群衆、なんでもCGでできてしまう。進化したのは猿ではなく、映像技術だった。
 というわけで『猿の惑星・創世記』は、最初のシリーズを踏まえながらも、別のストーリーになっている。
 アフリカのジャングルで捕縛されるチンパンジー。大手製薬会社がアルツハイマーの治療薬の開発に類人猿を使って効果を実験している。研究所で一匹の雌のチンパンジーが賢くなる。人間にも効き目があることがわかり、会社は薬の実用化に踏み切る。高齢化社会認知症がこれで解消できるわけだ。
 雌のチンパンジーは子猿を産んで死亡。製薬会社の研究員がその子猿をシーザーと名付けて育てるが、これが母猿よりもさらに賢くて、人語をしゃべることがわかる。
 ところが、普及した治療薬の効果は一時的で、副作用によって大量の人類が死滅する。逆に猿たちはどんどん賢くなっていく。
 最初のシリーズでは未来からきた知的チンパンジーの子供シーザーが暴動を起こし、猿が天下を取るのだが、アルツハイマーの治療薬で猿たちが賢くなるほうが、はるかに説得力があった。
 この新シリーズは『新世紀』『聖戦記』と続き、猿たちもまた人類同様に戦争を始めて、終わるのだ。次の世はジョナサン・スウィフト風の知的な馬の惑星になるのだろうか。

 

猿の惑星・創世記/Rise of the Planet of the Apes
2011 アメリカ/公開2011
監督:ルパート・ワイアット
出演:ジェームズ・フランコアンディ・サーキスフリーダ・ピントー、ジョン・リスゴー