第49回 ヴィクトリア女王 最期の秘密
十九世紀、世界中に植民地を有する大英帝国は、日の沈まない国と呼ばれた。インドは大英帝国支配下にあり、英国女王ヴィクトリアがインド皇帝であった。
アグラの牢獄で書記をしていたアブドゥラはインドから女王に記念金貨を献上する役目を仰せつかる。長身で見栄えがいいという理由で。
ウィンザー宮での祝宴で、女王陛下に金貨を差し出すアブドゥラ。あろうことか、跪き、女王の靴に口づけし、決して目を合わせてはならないと注意されたのに、しっかりと拝顔し、笑顔まで見せてしまう。
これがきっかけとなって、従僕に抜擢され、秘書となり、東洋はヨーロッパ人から見て、決して下等な野蛮国ではなく、美しい遺跡や高尚な言語、素晴らしい文化があったことを女王に伝える。
アブドゥラは女王のウルドゥー語の師匠となり、身分や年齢を越えて、ふたりの間は親密になる。老いた女王の恋心か、インド青年の野心か。
有色人種で下層民の出でイスラム教徒、そんな男が女王に優遇される。女王は彼にどんどん感化され、王宮はインド風に飾られる。皇太子他、家臣一同、みなみな我慢できず、女王の依怙贔屓がかえってアブドゥルを危機に追い込む。
彼は敬愛する女王の前から去ろうとはせず、やがて、女王の死とともに、英国を追われるのだ。ほぼ実話が元になっているとのこと。
ジュディ・デンチは『ヴィクトリア 至上の恋』でも同じ女王を演じており、今回も八十代のヴィクトリアと年齢、外見、貫禄もぴったりで、まさに適役といえる。
十九世紀末は私の好きなシャーロック・ホームズの時代でもあるが、スコットランドの茶会の場面でディアストーカーを被り、インヴァネスを羽織った人物を見つけ、うれしくなった。
ヴィクトリア女王 最期の秘密/Victoria and Abdul
2017 イギリス・アメリカ/公開2019
監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル