シネコラム

第48回 会議は踊る

第48回 会議は踊る

昭和五十一年一月(1976)
大阪 堂島 毎日文化ホール

 

『ちいさな独裁者』の中で偽の大尉が部下たちとどんちゃん騒ぎする場面で歌って踊るのが『ただ一度だけ』という曲で、戦前のドイツ映画『会議は踊る』の主題歌なのだが、この曲、残虐な悪人たちが歌っても心が浮き浮きするから不思議だ。
 いつだったか、ぶらりと入ったビヤホールで、たまたま、演奏の余興をやっているのに出くわしたことがある。ドイツ風の民族衣裳を着た日本人歌手と、やはり民族衣裳の日本人アコーディオン奏者。曲はドイツ語の『ただ一度だけ』だった。ビールを大ジョッキで飲むのにふさわしいバックミュージックである。
 この.映画の背景になるのが一八一四年のウィーン会議オーストリア宰相メッテルニッヒが主導権を握るため、各国首脳を連日連夜の舞踏会で骨抜きにしたという。
 町娘の投げた花束がロシア皇帝の馬車に当たり、娘は爆弾魔と誤解され、逮捕される。これをひとりの紳士が救い、いっしょに酒場で語り合う。紳士が酒場で出したチップのコインに刻印された肖像を見て、娘はこの紳士こそ、お忍びのロシア皇帝アレクサンドルだと気づく。
 ふたりの間に恋が芽生え、皇帝からの迎えの馬車に揺られ、町娘が歌う歌。それが『ただ一度だけ』なのだ。
 そして、その恋も、ナポレオンがエルバ島を脱出したという突然の報によって終わりを告げる。
 サイレントからトーキーに変わって間もない頃の作品なので、ふんだんに音楽が取り入れられている。
 舞踏会は会議を有利に進めるためのメッテルニッヒの策略だが、難しい議論を戦わせるより、楽しく歌って踊るのが好きというのは、今の風潮にも通じる話である。

 

会議は踊る/Der Kongress Tanzt
1931 ドイツ/公開1934
監督:エリック・シャレル
出演:リリアン・ハーヴェイ、ヴィリ・フリッチュ、コンラート・ファイト