シネコラム

第47回 ちいさな独裁者

第47回 ちいさな独裁者

平成三十年十一月(2018)
京橋 テアトル試写室

 

 これは喜劇タッチではあるが、悲劇なのか、風刺劇なのか。
 第二次大戦末期のドイツ、野山を逃げ回る脱走兵のヘロルト。軍にも農民にも追われるうち、偶然に乗り捨てられた軍用車を見つけ、そこにあった勲章付きの大尉の軍服を盗んで着こむ。ただの上等兵だが、将校の軍服を着ると偉くなった気分になるのだ。たまたま通りかかった敗残兵が敬礼し、同行を願い出たので、鷹揚にこれを部下にし、その後、数名の脱走兵を特別任務と称して指揮下に置き、別の部隊と合流して脱走兵収容所に乗り込む。
 大尉の軍服を着用、数名の部下を引き連れ、堂々と振る舞うヘロルトを疑う者はなく、ヒトラー総統からの特命をちらつかせて、好き放題。敗戦目前のごたごたの時期で、だれも深く追求しない。収容所では囚われている多数の同胞を裁判せずに処刑する。
 悪行の末、とうとう最後は逮捕され、死刑が妥当なのに最前線送りを宣告される。軍部もいい加減なのだ。が、そこもまんまと抜け出してしまう。
 気弱な若い脱走兵が、最初はおどおどしながらも、徐々に居丈高となり、最後は権力を手にして大量殺人。つまり、ヒトラーの小型というわけだ。
 しかもこの物語は実話で、実在のヴィリー・ヘロルトは戦後、イギリス軍による軍事裁判で死刑となった。二十一歳とのこと。
 エンドロール、現代に現れたヘロルト大尉と部下たちが一般市民を尋問する場面が描かれる。悪い時代が再び現れませんようにという願いであろう。
 帝政時代のドイツでも同様の事件があり、古着屋で手に入れた軍服で大尉になりすました靴職人が本物の兵士を指揮して市を占拠し、略奪を行った。こちらも文学や映画の題材になっているそうだ。「ケーペニックの大尉」事件という。

 

ちいさな独裁者/Der Hauptmann
2018 ドイツ/公開2019
監督:ロベルト・シュヴェンケ
出演:マックス・フーバッヒャー、フレデリック・ラウ、ミラン・ペシェル

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