シネコラム

第37回 雨に唄えば

第37回 雨に唄えば

昭和五十四年五月(1979)
歌舞伎町 新宿アートビレッジ

 

スタア誕生』の第一作はジャネット・ゲイナー主演だが、それを観たときミュージカル映画雨に唄えば』が頭に浮かんだ。
 人気スターと無名の女優志望。それが出会って恋に落ちるという設定はそのままで、しかもサイレントからトーキーに移行する時代のハリウッドが背景になっている。
 サイレント時代、銀幕のスターであるドンとリナはいつも恋人同士を演じている。
 私生活でも恋人のように思われているが、それは映画会社がふたりの人気をあおるための話題作りに過ぎず、スタントマン出身のドンは下積み時代にスターのリナに見下されたことがあり、有名になるや、急になれなれしくするリナを嫌っている。
 女優志願のキャシーがパーティの余興で偶然にドンと知り合い、ドンは彼女の魅力に惹かれる。
 やがて、時代はトーキーへと移り、リナの訛りのひどい悪声で、ロマンチックな恋愛映画がプレミア試写で大爆笑。これでは映画が台無しになる。そこで、声のきれいなキャシーが吹き替えすることに。しかも歌も歌えるのでミュージカルに仕立て直して。
 これこそ、キャシーを売り出すきっかけと喜んだが、意地悪なリナは契約を盾に、キャシーを一生自分の声だけの替え玉として縛りつけるつもりだ。そこでドンたちがとった反撃は。
 サイレントからトーキーに移行する時期、声が悪くて失業するスターはいただろう。
 声の悪い意地悪女優を演じたジーン・ヘイゲンは外見も美人だが実は声も美しく、わざと変な声の演技をしたそうだ。映画の中で吹き替えのデビー・レイノルズが歌うシーン。実際にはヘイゲン自身が歌っていたとのこと。私はデビー・レイノルズよりも、ジーン・ヘイゲンのほうがずっと好きである。

 

雨に唄えば/Singin’ in the Rain
1952 アメリカ/公開1953
監督:ジーン・ケリースタンリー・ドーネン
出演:ジーン・ケリーデビー・レイノルズドナルド・オコナージーン・ヘイゲン