第32回 怪談夜泣き燈籠
平成四年七月(1992)
早稲田 ACTミニシアター
時代劇全盛の頃は怪談映画もたくさん作られた。『四谷怪談』『番町皿屋敷』『牡丹灯籠』『累が淵』などなど、芝居や落語、講談などの脚色が多いが、中にはオリジナルもけっこうある。
『怪談夜泣き燈籠』もまた、『蚊喰鳥』同様に細部の凝った佳作。主要登場人物は四人だけ。
まず長屋の葬式の場面、死んだのは放蕩の末勘当された大店の若旦那。元出入りの植木屋が世話を焼いている。が、早桶にそっと握り飯を入れる植木屋。実は借金で首が回らなくなった若旦那を植木屋がうまくそそのかして、急死したことにし、親元から金をせしめる魂胆なのだ。若旦那の女房はそれを知らない。早桶は若旦那を入れたまま、墓に埋められる。後で植木屋が掘り返す手筈になっているが、こいつが悪い奴で、若旦那をそのまま生き埋めにして、店から出た金は着服し、女房ともうまくやってしまう。そこへ現れる若旦那の幽霊。
驚くふたりのところへ駕籠留という駕籠屋の親分が乗り込む。若旦那の幽霊がおまえたちの悪事を残らず訴え、俺に敵討ちを頼んだとの強請り。
真相は若旦那が墓から蘇生し、駕籠留に助けを求めたのであった。ところが、この駕籠留が植木屋よりもずっと悪党で、女房を手に入れ、金もせしめ、若旦那も自分の手で殺す。が、そこへ若旦那の幽霊が。
最初幽霊だと思ったのは生き返った若旦那であり、生き返った若旦那だと思ったら、本物の幽霊だったという趣向。
四人が四人とも欲にかられた悪党で、幽霊になったり、殺し合ったり、最後はまた長屋の新たな葬式の場面で終わるのだ。
若旦那が小林勝彦、女房が藤原礼子、植木屋が名和宏、そして駕籠屋の親分が中村鴈治郎。味のあるキャスティングである。