第33回 リング
平成十年三月(1998)
渋谷 渋東シネタワー4
初めて映画館で『リング』を観たときのことは忘れられない。怖い映画というのは知っていたが、詳しい内容は知らずに観た。
二人の女子高校生が夜、怖い体験を語り合っている。あたし、いやなビデオを見たの。それを見た人は一週間後に死ぬという。するとその家の電話がいきなり鳴り、TVが突然点いて。
変死した女子高校生の謎を親戚の女性ルポライターが探ると、呪いのビデオの存在がわかって、元夫である心霊研究家と協力して事件の究明に向かう。二人の努力で、やがて事件は解決したかに見える。
なあんだ。たいしたことないじゃないか。と思ったら、ここからが怖いのだ。
心霊研究家の書斎のTVがいきなり映る。気味の悪い荒れた画質。井戸から女が這い出てくる映像。どんどんこちらに近づいてくる。そして怪談映画史に残るあの有名な場面。貞子がTV画面からぬうっとこっちへ出てくるところ。
きゃあっと映画館の満員の観客が一斉に悲鳴をあげてのけぞったのだ。
これこそ、映画館でホラーを観る愉しみだと実感した。周りの観客の反応が相乗効果となる。みんなといっしょにのけぞることで、恐怖が盛り上がる。家のTVでひとりで『リング』を見るなんて、盛り上がらないし、第一怖すぎる。
『リング』があんまりショックだったので、二本立てのもう一本『らせん』は全然怖くなく、記憶に残らなかった。割を食ったようだ。
ハリウッドでリメイクされた『ザ・リング』は中田秀夫監督のオリジナルとほとんど同じ。最初、二人の白人の制服女子高校生が英語でしゃべっているので、思わず笑ってしまった。TVから女のオバケが抜け出るところも、もちろん、すでにどうなるか知っているので、怖くもなんともなかった。ホラーは初見に限る。