第22回 夜の大捜査線
平成二十三年九月(2011)
府中 TOHOシネマズ府中
初めて『夜の大捜査線』を観たのは一九七二年の秋、TVの日曜洋画劇場だった。あの頃は淀川長治、荻昌弘、水野晴郎など著名評論家の解説付きで、毎週毎週、何本もTVで海外の劇映画が放送されていた。
私はTVで名作に出会うと、どうしても映画館のスクリーンで観たくなる。が、なかなかそれは叶わない。『夜の大捜査線』をスクリーンで観ることができたのは、約四十年後の午前十時の映画祭だった。
一九六〇年代のアメリカ南部。小さな町で殺人事件が起きる。路上の死体から財布がなくなっているので、強盗の仕業と判断した警察署長は部下に怪しい人物を探すように命じる。すると、いるのだ。駅にひとりの黒人が。それもよそ者。しかも大金を所持している。
警官は有無をいわせずこの黒人を連行する。不審な黒人を白状させようとして署長は驚く。なんとこの黒人、フィラデルフィアのベテラン刑事だった。たまたま休暇で故郷へ帰るため、この町の駅で乗り換え列車を待っていただけ。
フィラデルフィアの上司から田舎町の殺人事件を手伝うよう指示され、黒人刑事はしぶしぶ引き受ける。署長も警官も町の住人たちも黒人に偏見があり、黒人蔑視の空気の中で、黒人刑事は捜査能力を発揮する。
この映画のラストシーンは大好きだ。事件がすべて解決し、署長自ら黒人刑事を駅まで車で送り、ホームまで鞄を運び、握手を交わす。発車間際、黒人刑事に向って、署長が言う。元気でな。微笑みを返す黒人刑事。
一九六七年という、まさにあの時代に作られた、すばらしい一本である。
夜の大捜査線/In the Heat of the Night
1967 アメリカ/公開1967
監督:ノーマン・ジュイソン
出演:シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ