シネコラム

第13回 ゴジラ

飯島一次の『映画に溺れて』

第13回 ゴジラ

平成二年三月(1990)
三鷹 三鷹オスカー

 

 ゴジラの第一作は終戦からそれほど年月が経っていない時期に作られた。
 私が最初に観たゴジラは一九六二年の『キングコング対ゴジラ』であり、その後、ずうっと第一作を映画館で観る機会はなかった。
 結婚してから、私は妻と三鷹オスカーの三本立てにしばしば通い、第一作の『ゴジラ』とはそこで出会った。三本立て、あとの二本は『モスラ』と『空の大怪獣ラドン』ですごいプログラムである。三鷹オスカーは小津安二郎三本立て、ウディ・アレン三本立て、ブライアン・デ・パルマ三本立て、ミュージカル三本立て、SF大作三本立てなど、映画好きにはたまらない名画座だった。
ゴジラ』を観て驚いたのは、これが決して子供向きの幼稚な特撮怪獣映画ではなかったことだ。
 おそらくは広島と長崎に落とされた原爆のイメージである。ゴジラそのものが、原水爆実験によって目覚めた大古の怪物という設定なのだ。
 そして、ゴジラに破壊される東京、逃げ惑う人々、これは米軍による東京大空襲の再現のようである。
 俳優もスタッフも、みんな戦争を体験した世代で、その理不尽な悲惨さを身にしみて知っている人たちなのだ。
 だが、この映画はそんな反戦映画ではない。わくわくするような娯楽映画である。暴れ回る怪獣の恐ろしさ。それに反して老教授の志村喬はほとんど『生きる』の渡辺さんのごとくで、ユーモアを振りまいている。教授の娘をめぐって、宝田明平田昭彦の恋の鞘当て。パニック映画であると同時に人間ドラマでもある。
 大人の鑑賞に耐え、そのことが後々数多くの続編を生み出すことになる。

 

ゴジラ
1954
監督:本多猪四郎
出演:宝田明河内桃子平田昭彦志村喬

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