第11回 大魔神
昭和四十一年四月(1966)
大阪 八尾 八尾会館
祖母が映画好きだったおかげで、幼少時にはしょっちゅういっしょに映画館に通ったが、何を観たか、あまり記憶にないのだ。ほとんど時代劇だったが。
六十年代の小学校入学時には、家にはすでにTVがあったので、映画館に行く回数はぐっと減る。それでも、年に何回かは映画館に連れて行ってもらい、小学生以降に観た映画はかなり憶えている。
中学生になったばかりのとき、祖母と最後に観たのが近鉄八尾駅前の商店街にあった古い小さな映画館での『大魔神』と『ガメラ対バルゴン』の大映二本立てだった。
東宝の『ゴジラ』から始まる怪獣ものは、大ブームとなり、ゴジラ、モスラ、ラドンなど次々と出て、TVでは『ウルトラQ』も始まった。東宝に続けと便乗して怪獣映画を作ったのが松竹のギララ、日活のガッパ、大映のガメラ。
当時の子供はたいてい怪獣が好きだったが、さすがに中学生ともなると、怪獣には飽きてきて、私のその日の目当てはガメラではなく『大魔神』のほうだった。
時は戦国時代、暴君に親を殺された娘が、山の神像に祈る。巨大な石像で、普段は埴輪のような穏やかな顔だが、怒ると恐ろしい鬼のような形相に変わり、大魔神となって動き出す。
怪獣ではなく、一種の神様、『アルゴ探検隊の大冒険』に出て来る青銅の巨人のようなものか。これが悪殿様とその家来たちを踏み潰し、叩き殺す。当時は時代劇もまだ人気があったから、出て来る俳優も本格的な着物やちょんまげが似合う人たちで、そこに怪物が現れるというのは、なかなか魅力的であり、単なる子供だましではなかった。
祖母がこの映画に連れて行ってくれたのは日曜日で、今でも憶えているのは、その日にTVの『ウルトラQ』があり、映画に行くと好きなTVが見られなくなる。さんざん迷って『大魔神』にしたが、今でもいい選択だったと思う。
大魔神
1966
監督:安田公義
出演:高田美和、青山良彦、藤巻潤、五味龍太郎