第1回 七人の侍
昭和四十七年八月(1972)
大阪 堂島 毎日ホール
大好きな映画はたくさんあるが、おそらく、私はこれが一番だ。
映画館や公共ホールの上映会、名画座やフィルムセンターでの黒澤特集、三船特集などで何度も何度も繰り返し観ている。
そして、いつ観ても新たな発見があり、感動してしまう。
三時間半近い上映時間ながら、どこをとっても無駄がなく、これほど完成された映画は類をみない。しかも、大変に面白い。世の中には立派な芸術作品でありながら退屈なものや、面白いのに薄っぺらでなんにも残らない作品がけっこう多い。が、『七人の侍』は黒澤明の職人芸の極致、これほどの作品がよくもまあ、可能であったことか。
戦国時代、治安は乱れ、敗残兵が野盗となって村を襲う。収穫期になると略奪される農村では、野武士と戦うことを決意し、食い詰めた浪人を雇うことにする。
四人の農夫が町で武士を探すが、簡単にはいかない。が、ようやく志村喬ふんする冷静沈着な勘兵衛を中心に侍が集まる。勘兵衛の小者であった七郎次、温厚な五郎兵衛、明るく陽気な平八、剣の達人で無口な久蔵、勘兵衛に憧れる前髪の勝四郎。そこへ七人目の男、三船敏郎ふんする菊千代が現れる。形は浪人だが、武士の素養はなく、一目で百姓出とわかるが、これが六人のあとを勝手についてくる。
雇った侍を農夫たちは心底信用しておらず、村では恐れて娘を男装させる者もあるが、菊千代の機転でだんだんと打ち解ける。
野武士の数は四十名。これとどう戦うか。勘兵衛は策を弄し、農夫たちを訓練し、やがて最後の雨の中の大決戦となる。
脚本、俳優の演技、衣装や小道具や鬘のひとつひとつが細かく吟味され、主役クラスはもとより、村の農民たち、町を歩く通行人、エキストラのひとりひとりがすべてリアルで嘘がない。映画を面白くするのがリアリズムであるという見本である。
七人の侍
1954
監督:黒澤明
出演:三船敏郎、志村喬、木村功、加東大介、宮口精二、千秋実、稲葉義男