頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー26
「16テーマで知る鎌倉武士の生活」
(西田友広、岩波ジュニア新書)
昨年(令和4年、2022)のNHK大河ドラマは「鎌倉殿の13人」でした。源平合戦後の鎌倉が舞台というNHKでは珍しいドラマだったと思います。
本書の奥付を見ると、2022年8月19日第1刷り発行となっていますので、大河ドラマを意識しての出版に間違いないようです。
とはいえ、当時の鎌倉武士の暮らしや行動等については、知らない方も多いと思われますので、そうした方達の興味に応えるという意味では、本書も意義あるものと思います。実は私もその一人で、鎌倉武士の生活には以前から興味を持っていました。
本書は、「16のテーマで知る」となっていますので、まず、その16について見てみましょう。
1.鎌倉武士とは、2.鎌倉武士の誕生、3.鎌倉武士の住居、4.鎌倉武士の食生活、5.鎌倉武士の服装、6.鎌倉武士の武装、7.鎌倉武士の合戦、8.鎌倉武士の武芸、9.鎌倉武士の人生、10.鎌倉武士の教養、11.鎌倉武士の娯楽、12.暴力と信仰、13.鎌倉殿への奉公、14.守護と地頭。15.女性の地位、16.鎌倉武士の行方
いかがでしょう。ほとんど網羅されているのではないでしょうか。
16の内容をここで紹介するのはご容赦いただいて、興味のある方は本書をお読みください。1.から順に読み進めても良いでしょうし、興味のあるテーマから先に読んでも良いでしょう。特にNHKのドラマを見られた方は、ドラマの時代考証を思い出しても良いですし、印象に残ったところを再確認の積もりで読んでも面白いのではないでしょうか。
一点だけ私の興味のあったところで紹介すると、14.の地頭のところです。
鎌倉武士イコール御家人ではありません。当時、武士でありながら(鎌倉殿の)御家人でなかった者はたくさんいます。しかしながら、地頭はイコール御家人です。
なぜなら、地頭は鎌倉殿によって任命されるからです。御家人は鎌倉殿に忠誠を誓った者であり、御家人と鎌倉殿は、御恩と奉公の関係にあります。この御恩がいわゆる地頭の任命ということになります。従って、地頭とは鎌倉時代になってからの役職といって良いでしょう。
なお、鎌倉時代は単独で守護は存在しません。必ず地頭(御家人)から任命されます。守護は土地を支配する役職ではないからです。(後期には北条氏が多く守護を独占しますので、あるいは地頭職を持たずに任命された人物もいたかも知れません。)
では、地頭とはいったい何でしょうか。
右の図は、荘園が発生・発展し、公領と並ぶ2大土地支配(荘園公領制)を表したものです。
よく見掛ける図だと思いますが、このうち公領であれば、郷司や保司、荘園であれば下司や公文などの荘官(在地領主であり、「荘公下職」と呼ばれました)を武士は務めていたのです。そうした「武士たちの持っていたさまざまな荘公下職を地頭職に切り替えながら、武士たちを御家人として」頼朝は、組織していったのです。
荘公下職も地頭も名称の違いで、やることが同じであれば、地頭として頼朝に従うメリットは何でしょうか。
それは、任免権が国司や荘園領主ではなく、頼朝にあるということです。地頭は国司や領家と揉めることなく、「鎌倉殿の保護のもと、安定することになった」のです。むしろ、鎌倉殿と武力を背景に強くなったかもしれません。
このことを頼朝が、朝廷に認めさせたことは、非常に大きなことで、頼朝は全国支配の基礎を得ることとなります。そのため、守護・地頭の設置をもって鎌倉時代の実質的な幕開けとみなす考え方もあるほどなのです。
本書は岩波ジュニア新書という体裁上ジュニア向けに書かれたものです。しかしながら、岩波ジュニア新書には、大人が読んでも十分堪能できるものが多くあります。本書もその一つだと思います。
解りやすく具体的な内容に驚くとともに目からウロコの発見も多いことでしょう。鎌倉時代に興味のある方には、ぜひおすすめの一冊です。
ちなみに、鎌倉時代を背景とした作品は数多くありますが、今回はその中で、「鎌倉殿の13人」にも近い葉室麟の作品を紹介します。
葉室麟は、すでに鬼籍に入られた作家で、主に江戸時代を背景に地方の藩で凜とした生き方を貫いた人物を多く描いています。とはいえ、初期にはこのような作品もありました。
「実朝の首」(葉室麟、角川文庫)
また、鎌倉武士を含む武士論に興味ある方は、こちらをどうぞ!
当レビューで取り上げるつもりでしたが、五味文彦さんの高い識見と広い知識、深い専門性によって書かれた本書の内容はあまりにも高度で、2~3ページでまとめるには、私では役不足でした。五味さんの武士論の集大成といっても過言ではないでしょう。
「武士論 古代中世史から見直す」 (五味文彦、講談社選書メチエ)