シネコラム

第664回 勝手にふるえてろ

飯島一次の『映画に溺れて』

第664回 勝手にふるえてろ

平成二十九年九月(2017)
六本木 アスミックエース試写室

 

 綿矢りさ原作のエキセントリックなラブコメディ。
 会社の経理部で働くヒロイン江藤良香、二十代半ばまで男性と付き合った恋愛経験がまったくなく、それが密かな劣等感となっている。十年以上、中学時代の片想いの相手「一」のことが忘れられず、日ごと過去の出来事を思い出し、脳内で妄想にふけるのだ。
 良香が語り合える相手は会社で机を並べている同僚の来留美、他には川べりで毎日釣りをしている中年男、行きつけのカフェのウェイトレス、バスで隣合わせになる編み物好きの老女、コンビニの男性店員ぐらいなものか。
 ある日、同じ会社の営業部の男子社員霧島に話しかけられ、経理部と営業部との合同コンパが開催され、だんだん接近していくが、脳内には片想いを続ける「一」がいるので、霧島を「二」と呼ぶ。
 が、何度か霧島にデートに誘われ、とうとう告白され、有頂天で舞い上がり、川べりのおじさん、ウェイトレス、バスの老女、コンビニ店員にうれしさを伝える。だが「二」の積極さが疎ましく、とうとう中学の同窓会を別の女子の名を使って企画し、「一」と再会。「一」もまた東京にいることを知り、東京在住の同級生たちで集まって、飲み会。その日、ふとしたことで「一」と親密に会話し、アンモナイトなどの共通の趣味があることがわかるのだが、さらにショックなことが。
 彼女が知り合いだと思っていた川べりのおじさんやウェイトレスやその他の人たちはみんな妄想だったのか。彼女には語り合う友達なんて最初からだれもいないのか。「一」が幻想だったのなら、「二」もまた架空なのだろうか。
 思い込みの激しいヒロイン良香を演じる松岡茉優がコメディエンヌぶりを発揮。このセンスはウディ・アレンの『ボギー俺も男だ』や『アニー・ホール』に通じる。
 アパートの隣室でいつもオカリナを吹いている中年女性の名が岡里奈、というのが笑えた。オカリナおばさんを演じるのは片桐はいりである。

勝手にふるえてろ
2017
監督:大九明子
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、古舘寛治、片桐はいり、趣里、前野朋哉

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