シネコラム

第663回 デトロイト・メタル・シティ

飯島一次の『映画に溺れて』

第663回 デトロイト・メタル・シティ

平成二十一年二月(2009)
高田馬場 早稲田松竹

 

 田舎から上京し、東京で大学生となった根岸崇一青年。おかっぱ頭でなよなよしながらギター抱えて、人々に夢を与えたいと、大学の軽音楽サークルに属し、路上で明るく軽い軟弱な恋の歌を歌っているが、通行人はだれも見向きもしない。一念発起しプロの歌手を目指して、とある音楽事務所の門を叩く。
 デスメタル系のバンド、DMCことデトロイト・メタル・シティが注目を集めている。毒々しい衣裳、不気味なメーキャップ。観客を口汚くののしりながら、悪魔の呪文のように女性蔑視、暴力礼賛の忌まわしい歌詞をわめき散らす。熱狂する観客たち。
 地獄からの使者を自称するボーカルのクラウザーが楽屋で白塗りのメイクを落とすと、そこに現れた素顔は軟弱青年の根岸崇一。ぼく、こんなバンド、やりたくないよう。嘆きながらも、女社長に虐待され、ステージで悪魔になりきる。
 大学のサークル時代に憧れていた相川由利に偶然再会すると、彼女は音楽雑誌の記者になっていた。根岸は自分が音楽の道に進んでプロになったことを話したい。でも、彼女は死ぬほどデスメタルが大嫌い。だから打ち明けられないまま、デートする。
 根岸の悲痛な嘆きとはうらはらに、DMCはどんどん売れていく。オフの日に素顔に戻り、路上で軟弱な恋の歌を歌っても、通行人は知らん顔。なにもかもいやになって田舎に帰ると、実家でもDMCは大人気。だが、家族は一家の長男がクラウザーだとは知らないのだ。いよいよアメリカの大物スターが来日し、DMCとライブ対決することになり、根岸はようやく目覚める。人々に夢を与えることはデスメタルでも可能だと。
 可憐な由利の加藤ローサ、過激な女社長の松雪泰子、ふたりの間で揺れる根岸役の松山ケンイチ、軟弱とデスメタルの両極端を演じて、さすがに芸達者。
 この映画を観て、『ファントム・オブ・パラダイス』を思い出した。軟弱作曲家が曲を盗まれ、毒々しいバンドで歌われ、復讐のため怪人に変身して、マントをひるがえし舞台を駆け抜ける場面など。ひょっとしてDMCはファントムのオマージュだろうか。

デトロイト・メタル・シティ
2008
監督:李闘士男
出演:松山ケンイチ、加藤ローサ、秋山竜次、細田よしひこ、松雪泰子、鈴木一真、宮崎美子、大倉孝二、岡田義徳、高橋一生、菅原大吉、ジーン・シモンズ

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