シネコラム

第584回 バビロン

飯島一次の『映画に溺れて』

第584回 バビロン

令和五年二月(2023)
日比谷 TOHOシネマズ日比谷

 

 映画を題材にした映画は、どれも映画愛に満ち溢れているように思う。
 サイレントからトーキーに移行するハリウッドの映画界を描いた『バビロン』は同じ設定の『雨に唄えば』と重なる場面が多い。『サンセット大通り』や『ニューシネマパラダイス』をも連想させる。タイトルの由来は『グッドモーニング・バビロン』であろうか。
 一九二〇年代後半のハリウッド、映画会社社長の大邸宅での乱痴気パーティ。雑用係に雇われたメキシコ移民のマニー・トレスは、派手なセクシー衣装でパーティに潜り込もうとする女優志望のネリー・ルロイと出会い、屋敷の一室で映画への夢を語り合う。スターになりたいのかと聞かれて、ネリーは答える。スターはなるものじゃない。あたしは生まれつきのスターなのよ。
 この夜がきっかけとなって、ふたりに道が開けるのだ。ネリーはセクシーさに注目され売れっ子スターとなる。マニーは大スター、ジャック・コンラッドの世話係となり、やがてアイディアが認められてプロデューサーとなる。だが、時代はサイレントからトーキーへと移り変わった。『ジャズシンガー』のプレミアショーで客席は総立ちとなって感激の拍手を送る。スターだったジャック・コンラッドはトーキーの失敗作が続いて仕事を失う。
 セクシー女優のネリーを演技派として売り出そうとするマニーだったが、彼女はギャングの賭博場に出入りし、破滅に向かい、彼女を助けようとしたマニーもギャングから狙われ、ハリウッドを去る。
 月日は流れラストシーンは二十年後、妻子とかつての撮影所の前を通りかかったマニー。ひとりで映画館に入り、公開中の『雨に唄えば』を観ながら、過去を回想して涙する。
 ジャック・コンラッドが電話する相手がグロリア・スワンソンだったり、当時のハリウッドのエピソードが満載だが、ギャングの場面は醜悪すぎて蛇足に思えた。ネリーを演じたマーゴット・ロビーはまさにネリー・ルロイそのもので、最高に輝いている。

バビロン/Babylon
2022 アメリカ/公開2023
監督:デイミアン・チャゼル
出演:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リー、トビー・マグワイア、ルーカス・ハース、サマラ・ウィーヴィング、オリヴィア・ハミルトン、キャサリン・ウォーターストン

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