第691回 ペーパー・ムーン
昭和四十九年十一月(1974)神戸 三宮 ビック映劇
ライアン・オニールとテイタム・オニールの親子共演『ペーパー・ムーン』は、テイタムが最年少でアカデミー助演女優賞を受賞し、話題になった。
ピーター・ボグダノヴィッチ監督の作品はこの映画の前に『ラストショー』が大好きだったし、ライアン・オニールの『おかしなおかしな大追跡』も観ていたから、『ペーパー・ムーン』もぜひ観たかった。大阪で過ごした学生時代、封切りで見逃してしまい、少し遅れて神戸にある二番館のビック映劇で『ペーパー・チェイス』と「ペーパー」つながり二本立てで公開された。しかも『ペーパー・チェイス』の主演が『ラストショー』のティモシー・ボトムズだったので、わざわざ三宮まで出かけたこと、今でも憶えている。
背景は禁酒法時代の一九三〇年代、インチキ聖書売りの詐欺師モーゼがたまたま以前に関係のあった女性の質素な葬儀に立ち寄り、九歳の遺児アディを彼女の伯母の家まで送り届けることになる珍道中。アディは思う。母親の恋人は何人もいたが、ひょっとしてモーゼは自分の父親かもしれない。顎の形が似ているから。実際の親子共演なので、この設定がうまく活かされている。
幼い少女が詐欺の相棒となり、モーゼはけっこう稼ぐ。新聞の死亡記事を頼りに未亡人を訪ねて、夫からのプレゼントと騙して聖書を高額で売りつける。商店での釣銭詐欺はほとんど落語の「壺算」と同じ手口。詐欺で儲けて自動車を買い替えたりもするが、そこにマデリーン・カーンふんする自称ダンサーの変な女が現れ、モーゼと仲良くなる。幼いアディが策略を張り巡らしてこれをうまく取り除く。彼女にも詐欺の才能があるのだ。
モノクロ映像で当時のアメリカの殺風景な荒野が描かれ、当時の自動車が走り、流行歌がラジオから流れる。
ロードムービーの面白さは旅するふたりの掛け合いであり、テイタムはまさに天才子役。その後『がんばれ!ベアーズ』にも出演。だが、大人になってからのヒット作はない。
ペーパー・ムーン/Paper Moon
1973 アメリカ/公開1974
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
出演:ライアン・オニール、テイタム・オニール、マデリーン・カーン、ジョン・ヒラーマン、P・J・ジョンソン、ジェシー・リー・フルトン、ノーブル・ウィリンガム、バートン・ギリアム、ランディ・クエイド