シネコラム

第689回 あばれ駕籠

飯島一次の『映画に溺れて』

第689回 あばれ駕籠

令和七年二月(2025)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷

 

 NHKの時代劇『天下堂々』の前に放送された『天下御免』も名作で、江戸に出た平賀源内がたまたま知り合う長屋の町人新助、これが盗っ人の稲葉小僧だった。私はこの時代劇で稲葉小僧新助の名を知ることになる。
 ラピュタ阿佐ヶ谷の東映時代劇まつりで上映された『あばれ駕籠』は稲葉小僧新助と役者の中村仲蔵を東千代之介がひとり二役で演じている。稲葉小僧は天明年間に捕縛された盗賊。初代中村仲蔵は同じ頃に活躍した人気役者。どちらも実在したらしいが、それぞれに様々な伝説が生まれ、講談や落語の題材になっている。
 江戸の町を騒がせる義賊の稲葉小僧新助が捕り手に追われ、大名屋敷に逃げ込む。奥女中のお梶がこれに気づきながら、見逃がしたために、その咎で屋敷から暇を出されて蝋燭問屋松代屋に身を寄せている。松代屋の娘のお弥重は芝居好きで、役者の中村仲蔵と幼馴染。お梶を連れて芝居を見物し、楽屋に仲蔵を訪ねる。お梶は仲蔵を見てはっとする。屋敷で見逃がした盗っ人にそっくりなのだ。まさか、人気役者の中村仲蔵が義賊稲葉小僧となって、夜な夜な盗みを働いているのか。ところが、顔は似ていても別人である。
 中村仲蔵はお梶に一目惚れ。だが、人気絶頂で増長し過ぎたため、座頭の勘気に触れ、一座をお払い箱となる。一方、稲葉小僧新助もお梶に惹かれて、松代屋に忍び込む。
 町奉行所の与力もお梶に気があり、手先の御用聞きに周辺を探らせていると、どうやら稲葉小僧と中村仲蔵とがお梶とつながっているらしい。
 一座をしくじって酒浸りになっている仲蔵。稲葉小僧新助は仲蔵と自分との古いしがらみに気づき、座頭の市川団十郎を訪ねて仲蔵の復帰を願い出る。おかげで一座に戻った仲蔵、与えられた役が忠臣蔵の斧定九郎、たいした見せ場のないつまらない役である。
 役不足に悩む仲蔵が雨の中でやくざな浪人を見て工夫を思いつくのは、落語や講談で有名なエピソード。舞台の初日に定九郎が当たって大喝采の中村仲蔵。一方、芝居小屋の前で捕縛される稲葉小僧新助。同時代に生きたふたりを絡ませたうまい趣向である。

あばれ駕籠
1960
監督:松村昌治
出演:東千代之介、福田公子、円山栄子、坂東簑助、戸上城太郎、本郷秀雄、伊沢一郎、明石潮、北龍二、富田仲次郎、若山富三郎

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