第688回 大江戸評判記 美男の顔役
令和七年二月(2025)阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷
十代の頃にTVで観たNHKの時代劇『天下堂々』は講談『天保六花撰』の河内山宗俊や片岡直次郎に剣客平手造酒が加わり、史実の水野忠邦、鳥居耀蔵、高野長英、千葉周作、国定忠治、大塩平八郎など江戸後期の著名人が絡む虚実ないまぜの面白さだった。
河内山ものは映画やTVで何度も作られているが、河竹黙阿弥の歌舞伎『天衣紛上野初花』を寺山修司が脚色し篠田正浩がアングラ風に監督した『無頼漢』も忘れられない。
今回、ラピュタ阿佐ヶ谷の東映時代劇まつりで金子市之丞、河内山宗俊、片岡直次郎、暗闇の丑松が活躍するコメディ時代劇『大江戸評判記 美男の顔役』に出会えた。若い頃、TVで放送されたのを一度だけ観た記憶はあるが、昨年、フランク・キャプラ特集上映で『一日だけの淑女』を観て真っ先に思い出したのがこの『美男の顔役』だったのだ。
遊び人の直次郎へ国元の母親から手紙が届く。出世したせがれに会いたいので江戸へ出向くという内容で、直次郎は困惑する。旗本となり公儀目付に就任したと、とんでもない嘘の知らせを送っていたのだ。直次郎は兄貴分の金子市之丞に相談する。そこで河内山宗俊たち無頼仲間が一肌脱ぐという設定。ギャングたちが協力して貧しいりんご売りの老婆をレディに仕立てるデイモン・ラニアン原作の『一日だけの淑女』とよく似ている。
河内山が悪大名をだましてせしめた大金を直次郎のために使い、金子市や丑松が力を合わせ、中野碩翁の今戸の空き屋敷を目付の片岡直次郎の屋敷にして、母親を迎えてどんちゃん騒ぎ。これが碩翁に発覚し、さてどうなるか。
歌あり踊りあり笑いありで、やたら女にもてる美男の金子市が大川橋蔵、お数寄屋坊主で無頼の親分格河内山が山形勲、へらへらした遊び人直次郎が里見浩太郎、おどけた丑松が渥美清、行きがかりで片棒を担ぐ千葉道場の栄次郎が山城新伍、不気味な中野碩翁が月形龍之介、直次郎の母が浪花千栄子、これに桜町弘子や花園ひろみの女優陣が加わる。
江戸の町の群衆場面、無数の町人や武士たちが画面を埋め尽くす豪華さはまるでハリウッドのスペクタクル大作。当時に次々量産された東映時代劇のなんと充実していたことか。
大江戸評判記 美男の顔役
1962
監督:沢島忠
出演:大川橋蔵、山形勲、里見浩太朗、渥美清、山城新伍、桜町弘子、花園ひろみ、浪花千栄子、清川虹子、千原しのぶ、月形龍之介、田中春男、沢村宗之助、堺駿二