第686回 ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
平成三十年四月(2018)日本橋 TOHOシネマズ日本橋
まったく根拠のないSNSの無責任な妄言を鵜呑みにして、新聞をオールドメディアと批判する風潮は好ましいと思えない。新聞社は企業である以上、利益は重要で、そのためには正確で信頼のおける上質の記事を発信し、多くの人々に受け入れられる必要がある。
一九七〇年代の初頭、ベトナム戦争はますます悪化し、戦場に送られた若者の多くが命を落とし続けていた。アメリカがいかにしてベトナムに軍事介入していったか。その膨大な記録がペンタゴン・ペーパーズである。一九七一年、執筆者のひとりダン・エルズバーグによって持ち出された機密文書が、ニューヨークタイムズにスクープされる。
南ベトナムへの支援と共産主義の阻止は大義名分だが、勝ち目のないアジアの戦争にアメリカの若者が次々と駆り出されているのは、為政者の権威を守るために過ぎない。
ニクソン大統領は司法省を通じてタイムズに記事の差し止めを命じる。タイムズに先を越されたワシントンポストもまた文書のコピーを入手し、編集主幹のベン・ブラッドリーはタイムズの差し止め期間中にこれを記事にしようとするが、国を敵に回せば会社が潰れると幹部は反対する。そこで決断は社主であるキャサリン・グラハムに委ねられた。
実話を元にした社会派作品でありながら、スピルバーグ監督ははらはらするエンタテイメントとして描き、キャサリンのメリル・ストリーブ、ブラッドリーのトム・ハンクス他、名優が盛り上げている。
ブラッドリーは言う。新聞が仕えるのは国民であり、統治者ではない。報道の自由を守る手段はひとつ、報道することだと。このスクープで反戦の機運が高まり、ニクソンは負ける。そしてウォーターゲート事件を匂わせる場面で映画は終わる。
権力をしっかりと見張ることが報道の使命なのだ。あれから五十年、今の新聞は権力の不正をどう暴くのか。また虚偽の誹謗中傷を繰り返す新たな敵とどう戦うのか。新聞が上質の報道を続けるのなら、これからも信頼し、見守り、応援したい。
ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書/The Post
2018 アメリカ/公開2018
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィットフォード、ブルース・グリーンウッド、
マシュー・リース