第680回 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
令和六年十一月(2024)立川 シネマシティ
詐欺師が主人公の映画はバーバラ・スタンウィックの『レディ・イヴ』やイングリット・バーグマンの『追想』からヘレン・ミレンの『グッドライアー』までいくつもあり、どれも面白いが、一番の名作は『スティング』だと思う。
禁酒法時代、ロバート・レッドフォードの若い詐欺師が相棒と仕組んで路上で大金をせしめたら、これがギャングの上納金だった。相棒を殺され自分も狙われ、命からがらシカゴの大物詐欺師ポール・ニューマンのところへ逃げ込む。そこで詐欺師たちが仲間の弔い合戦としてギャングの親分ロバート・ショウを引っかける。
『カメラを止めるな』で一世を風靡した上田慎一郎監督の『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』はタイトル通り詐欺師の映画である。税務署員が詐欺師と組んで脱税王を引っかけるストーリーはそのまま『スティング』と同じ構図なのだ。韓国のTVドラマのリメイクらしいが、それは未見。
中野の税務署員の熊沢は性格は温厚、地味で目立たず、ことなかれ主義。家庭でも妻や娘に頭があがらず、風呂掃除をしたり、洗濯ものを畳んだり。これがたまたま不動産業界の大物実業家、巨額の脱税をしながら慈善家気取りの橘と出会ってしまい、ささいなトラブルから身に覚えのない罪を押しつけられる。自分になんの落ち度もないのに、辞職撤回のため、涙を飲んで謝罪し、手ひどい辱めを受ける。
さらに中古車販売の詐欺に引っかかり、踏んだり蹴ったり。警察に勤める友人に相談したら、詐欺は常習犯の氷室と判明。意外や、氷室から話を持ち掛けられる。金は返すから訴えないでほしい。その代わり、脱税王の橘を騙して、未払い分を奪ってやると。
つまり、公務員熊沢の内野聖陽がロバート・レッドフォード。詐欺師氷室の岡田将生がポール・ニューマン、脱税王橘の小澤征悦がロバート・ショウなのだ。汚い悪党の詐欺師たちがいかに悪辣な実業家をはめるかが見もの。相手はしたたかで、そう簡単に騙されはしない。そこは『スティング』同様に意外なオチも用意されている。
アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
2024
監督:上田慎一郎
出演:内野聖陽、岡田将生、川栄李奈、森川葵、後藤剛範、上川周作、鈴木聖奈、真矢ミキ、神野三鈴、吹越満、小澤征悦