シネコラム

第676回 十一人の侍

飯島一次の『映画に溺れて』

第676回 十一人の侍

令和元年八月(2019)
京橋 国立映画アーカイブ

 

 徳川十一代将軍家斉は在位が五十年、側室の数も子供の数も多く、夭折せず成人すれば、女子は大名家に嫁ぎ、男子は大名家の養子となった。そして、中には暴君や暗君として、家臣や領民を苦しめる者もいたかもしれない。
 工藤栄一監督の『十三人の刺客』は、他藩で強姦や殺人を平気で行いながら、十二代将軍の弟として老中に推挙される猟奇大名松平斉韶を参勤交代の道中で暗殺しようとする攻防戦を描いた集団時代劇の名作だが、同じ監督でほぼ同じ設定で作られたのが『十一人の侍』である。
 家斉が隠居して大御所となり、家慶が十二代将軍となった天保年間、家慶の弟で館林藩主の松平斉厚は狩猟の途中、隣国忍藩の農民を射殺したのをたまたま藩主の一行に咎められ、これも殺害する。藩主を失った忍藩では家老が老中水野越前守に斉厚の所業を訴えるが、将軍家の威信にかかわるとして却下される。公儀は斉厚を優遇し、忍藩を取り潰して領地を館林藩に合併する案件が進められる。
 忍藩では内密に家中から仙石隼人ら精鋭を集めて脱藩させ、斉厚暗殺を企てる。その動きを察知した水野越前は、阻止するための策を弄する。
「泰平の世を泰平のまま保つのは、戦乱の世を勝ち抜くよりも難しい」
 老獪な水野越前が佐藤慶、仙石隼人が夏八木勲、東映時代劇ながら、いずれも新劇の俳優座養成所出身の個性派である。卑劣で冷酷で愚昧なバカ殿、松平斉厚を演じた菅貫太郎は『十三人の刺客』では暗殺される松平斉韶であり、『大奥浮世風呂』の徳川将軍、TV『必殺仕置人』シリーズの第一話では極悪な町奉行を演じ、知的な風貌ながら性格の歪んだ悪役に定評があった。唯一主演の現代劇『田園に死す』で、寺山修司を思わせる映画監督の役を演じている。スガカンは俳優座養成所九期生であり、佐藤慶は四期生。夏八木勲ら花の十五期生には秋野太作、赤座美代子、栗原小巻、前田吟、小野武彦、高橋長英、三田和代、村井国夫、地井武男、浜畑賢吉、林隆三、原田芳雄ら著名な名優が多い。

十一人の侍
1967
監督:工藤栄一
出演:夏八木勲、里見浩太郎、南原宏治、宮園純子、大川栄子、佐藤慶、菅貫太郎、青木義朗、林真一郎、汐路章、近藤正臣、西村晃、大友柳太郎

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