シネコラム

第674回 悪魔と夜ふかし

飯島一次の『映画に溺れて』

第674回 悪魔と夜ふかし

平成六年十月(1994)
立川 シネマシティ

 

 私は怪談がけっこう好きだ。巧みな語り手による怖い話を聴くと背筋がぞっとする。『四谷怪談』は昔、歌舞伎座で中村歌右衛門のお岩を観られたことが自慢であり、『四谷怪談』だけでも映画を何本も観ている。よく出来たオカルトやホラー映画も嫌いではない。
 怖い話や不思議な話が好きな私だが、昔から気に入らないのがTVのオカルト番組で、幼稚なトリックを、偉そうな司会者が本物の超自然現象だと主張し、寄せ集めの出演者たちが絶賛するのを見て、あまりの馬鹿馬鹿しさに呆れたものだ。ところが、世の中には騙されやすい人が多いらしく、浅ましいインチキを本気で信じる視聴者が続出し、超能力や宇宙人やノストラダムスや霊媒や心霊商法やその他、胡散臭いインチキが次々と世に現れた。その元凶がTVであり、元ネタはどうやらアメリカのワイドショーらしい。
『悪魔と夜ふかし』は一九七〇年代の深夜のTVショーを題材にしたオカルトものである。当時人気のあったジョニー・カーソンの深夜番組「トゥナイト」に対抗すべく、新興の「ナイト・オウルズ」が登場し、司会者にジャック・デルロイが起用されて人気が出る。が、視聴率ではカーソンに及ばず、やがて消えてしまう。この映画は一九七七年のハロウィンに生放送された最後の「ナイト・オウルズ」のビデオテープが発見されたという設定で、番組の全容と舞台裏が映し出される。
 ハロウィントークの出演者は霊と語り合うインド系の霊媒、インチキを見破るベテランの手品師、悪魔崇拝の新興宗教から救出された生き残りの少女、その少女を保護する超心理学者。スタジオの客席を多くの視聴者が埋めている。
 まず、霊媒が客席から選んだ人物に最近亡くなった親族の声を聴かせる。次に手品師がそのトリックを見破る。悪魔に憑かれた少女を保護する超心理学者は心霊研究家であり、番組のメインは仕掛けなしの生放送でデルロイが少女の中の悪魔とトークする。それが「ナイト・オウルズ」の終焉となる惨劇を引き起こしたのだった。
 私はTVの実録オカルトは嫌いだが、手の込んだフィクションのオカルトは面白い。

悪魔と夜ふかし/Late Night with the Devil
2023 オーストラリア/公開2024
監督:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ
出演:デヴィッド・ダストマルチャン、ローラ・ゴードン、フェイザル・バジ、イアン・ブリス、イングリット・トレリ、リース・アウテーリ、ジョシュ・クオン・タート

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