シネコラム

第662回 転々

飯島一次の『映画に溺れて』

第662回 転々

平成二十年十二月(2008)
飯田橋 ギンレイホール

 

 オダギリジョーと三浦友和、どちらも若い頃から絵になる二枚目スターである。このふたりがどうしようもなく情けない駄目なふたりを演じるのだ。
 竹村文哉は子供の頃に親に捨てられ天涯孤独。一応は大学八年生だが、無為徒食の貧乏暮らしで将来に夢もない。彼のアパートに突然中年男が押しかけ、自分の靴下を脱いで、文哉の口の中にねじ込む。文哉は消費者金融に八十四万円の借金があり、福原愛一郎と名乗る中年男はその取立屋らしい。
 期限は三日、と言われても文哉にあてなどない。無頼のやくざ者の愛一郎が、そこで奇妙な申し出をする。百万円やるから、俺とつきあえ。いっしょに東京中を散歩するんだ。三日かかるか一ヶ月かかるか、俺がいいと言うまで歩く。ただ歩くだけで百万円。借金が返せる。不気味ではあるが、他に方法はない。渋々承知する。
 井の頭公園から、見慣れた風景がところどころ、目的地は霞が関。愛一郎は妻を殺してしまい、自首するのに桜田門の警視庁まで歩くという。奇妙なロードムービーである。
 途中で出会う変な人たち。文哉のかつての幼馴染のコスプレマニア、その父親の畳屋、ロッカー荒らしの月光仮面、愛玉子屋の母子、怒りっぽい時計屋、トラック運転手カップル、愛一郎が結婚式に雇われて夫婦役を演じた中年女。次々と現れては消えて行く。
 このストーリーとはほとんど関係なく、岩松了、ふせえり、松重豊が演じるスーパーの従業員三人組の場面がトリオ漫才のように挿入される。愛一郎のマンションのベッドの上で死んでいる妻。これがスーパーに勤めていて、無断欠勤のため、三人組がマンションを訪ねようとうろうろする。よくもまあ、これだけ大勢の個性派を集めたものだ。三木聡監督、その後の『大怪獣のあとしまつ』に通じるキャスティングもうまい。
 町で生の岸部一徳を見かけるといいことがあるそうだが、実は私、以前に西武線の小さな駅の改札口に立っている岸部氏を見たことある。いいことあったかなあ。

転々
2007
監督:三木聡
出演:オダギリジョー、三浦友和、小泉今日子、吉高由里子、岩松了、ふせえり、松重豊、広田レオナ、岸部一徳、鷲尾真知子、石原良純、平岩紙、横山あきお、石井苗子、風見章子、笹野高史、宮田早苗、麻生久美子

←飯島一次の『映画に溺れて』へもどる