シネコラム

第661回 青春ジャック 止められるか、俺たちを2

飯島一次の『映画に溺れて』

第661回 青春ジャック 止められるか、俺たちを2

令和六年三月(2024)
新宿 テアトル新宿

 

 俳優井浦新が若松孝二監督を演じた『止められるか、俺たちを』に続く第二弾。ではあるが、続編というよりも独立した一本になっており、一九八〇年代の映画界の状況が随所に出てくる。当時の話題作や映画館や監督や評論家の名前。どれも懐かしい。
 井浦新は若松孝二と容貌が全然異なるのに、若松監督のイメージそのまま、まるで若松本人が蘇ったように見える。ARATAの名で若松作品の常連だったからであろう。
 一九八三年の名古屋、VHSビデオカメラのセールスマンをしている木全純治のところに東京の若松孝二から連絡があり、名古屋に映画館を作るので支配人にならないかとの話。自分の映画を上映するための映画館を持っている監督なんて世界初だという意気込み。かつて池袋文芸坐のスタッフだった木全は名画座ならばと引き受ける。風俗街の雑居ビルに開館したミニシアターの名前がシネマスコーレ。木全支配人は若松監督作品以外にも自分の好きな大島渚や増村保造の作品も上映する。ここに地元の大学の映研で監督を目指す金本法子がアルバイトでスタッフに入り、映画マニアの予備校生井上淳一が客席に入り浸る。
 たまたま若松監督がスコーレに来場した日、井上は弟子入り志願を申し出、木全や金本といっしょに食事に誘われ、若松が東京に帰る新幹線にそのまま飛び乗ってしまう。やがて東京の大学に入学して若松プロに入った井上は、現場で毎日のように怒鳴られ、罵られながら、修業する。無頼でお茶目な若松監督はまるで『男はつらいよ』の寅さんのようである。シネマスコーレの赤字を嘆く若松に、収益は大切だが、ピンクを上映するよりも、アート系や中国映画や自主映画を上映してはどうかと訴える木全支配人。穏やかな好人物でありながら、真剣に映画愛に浸る木全を演じた東出昌大の奥深い演技が光る。
 映画監督を目指しながら、女であり、才能がなく、在日であると三重苦を口にしながら、井上に嫉妬する金本の芋生悠。
 実家が裕福で早稲田に合格し、若松プロで罵られながらも、河合塾の宣伝映画を任される井上青年の杉田雷麟。そして今、この映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』の監督となったのが、井上淳一本人なのだ。

青春ジャック 止められるか、俺たちを2
2024
監督:井上淳一
出演:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、コムアイ、有森也実、田中要次

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