シネコラム

第633回 ALWAYS 三丁目の夕日

飯島一次の『映画に溺れて』

第633回 ALWAYS 三丁目の夕日

平成十七年十一月(2005)
新宿 新宿文化シネマ2

 

 学生時代、一九七〇年代の後半、私は漫画にはほとんど興味がなかったが、たまたま友人のアパートに遊びに行ったとき、そこで西岸良平の漫画単行本『三丁目の夕日 夕焼けの詩』を見つけて、夢中で読み、書店で全巻買いそろえて、ことごとく読みふけった。なんと二〇〇五年にこの漫画が『ALWAYS 三丁目の夕日』として映画化されたのだ。
 物語は建設中の東京タワーの見える町、夕日町三丁目が舞台。おそらくは港区か中央区の下町ではなかろうか。一九五八年の春から年末までの設定で、自動車修理工場の鈴木オート一家と、少年雑誌に小説を書いている駄菓子屋の茶川竜之介を中心に、西岸良平の珠玉の短編漫画が散りばめられている。
 いきなりタイトルが昔の東宝スコープの商標で始まるのがうれしい。当時の服を着た当時の髪型の子供たちが昭和三十年代の路地であの頃流行した模型飛行機を飛ばして遊んでいる。それが飛んで、町の全貌が見えてくると、アスファルトで舗装されていない道路を当時の自動車が砂埃をあげて走り、当時の服装や髪型の人々が歩いている。映画はリアリズムなので、それがうまくいかないと、すべてが台無しになる。集団就職、コカコーラ、少年雑誌、戦争の傷跡、都電、オート三輪、男女の髪型、もう完璧で、私の世代の観客が見ると、懐かしさだけで胸がいっぱいになるだろう。
 鈴木オートの喧嘩っ早い社長が堤真一、そのやさしい妻が薬師丸ひろ子、青森から集団就職で出てくる六さんは原作では男子中学生だが映画では女子で堀北真希、駄菓子屋の三文文士茶川竜之介がむさ苦しい長髪の吉岡秀隆、茶川が思いを寄せる居酒屋のおかみヒロミが小雪、茶川の駄菓子屋に世話になる孤児の古行淳之介が須賀健太、その実父で横柄な一流企業の社長が小日向文世、空襲で妻子を亡くした医者が三浦友和という見事な配役である。この当時、会社員も公務員も商人も短髪が当たり前、長髪など滅多におらず、伸ばしているのはよほどの変人、茶川のような社会からはずれた芸術かぶれぐらいだった。

ALWAYS 三丁目の夕日
2005
監督:山崎貴
出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪、薬師丸ひろ子、堀北真希、もたいまさこ、三浦友和、須賀健太、小清水一輝、小日向文世、益岡徹、マギー、温水洋一、石丸謙二郎、奥貫薫、小木茂光、ピエール瀧、松尾貴史

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