シネコラム

第626回 ティファニーで朝食を

飯島一次の『映画に溺れて』

第626回 ティファニーで朝食を

昭和六十三年五月(1988)
荻窪 荻窪オデヲン座

 

 映画と原作は別物である。オードリー・ヘプバーンといえば、『ローマの休日』が一番だが、『ティファニーで朝食を』も代表作で人気がある。タクシーから降り立ったおしゃれなドレスのエレガントな美女ホリーがティファニー宝石店のショウウィンドウを見ながら、パンを食べるファーストシーン。テーマ曲の「ムーンリバー」が流れる。
 ジョージ・ペパードふんする無名の新人作家ポールが引っ越したアパートの上の階に住むのがホリー・ゴライトリー。いきなりベランダからポールの部屋に侵入したり、自室のどんちゃん騒ぎのパーティに招いたり。自由奔放の彼女にふりまわされながらもポールは惹かれるが、そもそも彼はリッチな有閑マダムの愛人であり、このアパートの一室もマダムから逢引きの場として与えられたものだった。
 図書館でホリーに出会ったポールは一冊だけの自著を蔵書カードで引いて自慢し、公園を駆けまわったり、ティファニーで一番安いプレゼントを彼女に贈るため、お菓子のおまけの指輪に文字を彫ってもらったりして、有閑マダムと別れる決心をする。が、ホリーがブラジルの富豪との結婚を決めたと知り、がっかり。ところが、シンシン刑務所の面会の件でマフィアとの関係を疑われて逮捕されたホリーはブラジル人との結婚話が破談となり、名無しの飼い猫を道端に捨て、空港へ向かう。ポールは猫を探しまわり、やがて……。
 その後、村上春樹訳の原作を読んだら、大筋はだいたい似ているが、内容はかなり違う展開だった。作家らしき「僕」が一人称で語る物語で、そもそも彼の名前は不明。映画は一九六〇年代の現代劇だが、小説は現代の「僕」が戦争中に出会ったホリーのことを回想するだけ。まだ本など出しておらず、有閑マダムの愛人でもない。ほのかな思いをホリーに寄せるが、映画のようなロマンスにならず、ほろ苦く終わる。ホリーは都会で暮らす田舎出身の野生児。作者カポーティはマリリン・モンローの主演を望んだともいわれる。今ならマーゴット・ロビー演じる『バビロン』のネリー・ルロイが近いのではなかろうか。

ティファニーで朝食を/Breakfast at Tiffany’s
1961 アメリカ/公開1961
監督:ブレイク・エドワーズ
出演:オードリー・ヘプバーン、ジョージ・ペパード、パトリシア・ニール、バディ・イブセン、ミッキー・ルーニー、マーティン・バルサム、ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ、ドロシー・ホイットニー、アラン・リード、ジョン・マッギーヴァー

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