第573回 フィッシャー・キング
平成四年三月(1992)
有楽町 よみうりホール
これはドン・キホーテに憧れるテリー・ギリアムのもうひとつの聖杯伝説のような気がする。主演はジェフ・ブリッジスとロビン・ウィリアムズである。
毒舌で人気のあるニューヨークのラジオDJジャック・ルーカスは、TV主演の話が持ち上がり有頂天である。放送中に電話してくる若い視聴者にヤッピーなんて滅ぼしてしまえと暴言を吐く。家で風呂から上がってTVを見ると、驚いたことに自分の顔が大きく放映されている。殺人現場のニュース番組。ジャックのファンである孤独な青年がラジオの暴言を鵜呑みにして、ヤッピーのたむろするバーに押し入り、銃を乱射して多数の死者が出たのだ。呆然と画面を見つめるジャック。
職をなくしたジャックは三年後、レンタルビデオ店を経営する年増女アンに養われ、酒に溺れる日々。ある日、川のほとりで浮浪者狩りのチンピラに襲われる。それを助けてくれたのが、頭のおかしな浮浪者パリーだった。パリーは聖杯を求める放浪の騎士だと名乗る。実はパリーは元大学教授ヘンリー・セイガンで、三年前バーで最愛の妻を目の前で射殺され、精神に異常をきたし、今では自分を騎士だと思い込んでいる。彼の悲劇が例の乱射事件だと知ってジャックは愕然とする。パリーは教授であった自分の過去がちらつくと、苦痛にさいなまれ、悪魔の化身の火を吹く赤い騎士の幻覚に襲われる。
パリーは出版社勤務のリディアをどうやらダルシネアのごとき思い姫として恋しているようだ。幻想の中で朝の通勤客で賑わう駅が、リディアが現れたとたんに舞踏会の会場となって、ビジネスマンやOLや神父や職員たちがワルツを踊り出す。
ジャックとアンの骨折りでパリーとリディアのデートは成功するが、その夜、川でパリーは浮浪者狩りのチンピラに襲われ、重症を負い、三年前の悲劇のショックを再び蘇らせて植物人間になってしまう。アンと別れ、DJの仕事に復帰したジャックは病院で寝たきりのパリーに会いに行き、彼のために聖杯を取って来ると約束する。そして奇跡が起こり、回復したパリーはリディアと結ばれる。
フィッシャ-・キング/The Fisher King
1991 アメリカ/公開1992
監督:テリー・ギリアム
出演:ジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ、アマンダ・プラマー、マーセデス・ルール