第541回 俺たちに明日はない
昭和四十八年十二月(1973)
大阪 戎橋 戎橋劇場
アメリカの禁酒法時代は大恐慌とほぼ重なるが、実在した強盗一味を題材にしたのが『俺たちに明日はない』である。
一九六〇年代末に次々と作られたアメリカン・ニューシネマの代表作で、原題は主人公ふたりの名を取って「ボニーとクライド」だが、このあと「ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド」が『明日に向って撃て』というように、ニューシネマの邦題に「明日」が付いた。
『俺たちに明日はない』はフェイ・ダナウェイ演じるボニー・パーカーの全裸シーンでいきなり始まる。朝、ベッドで目を覚ましたボニーは自宅の自動車を盗もうとしているチンピラのクライド・バロウと知り合う。クライドを演じるのが当時の二枚目ウォーレン・ビーティである。
ウェイトレスのボニーは刑務所から出たばかりのクライドと仲良くなり、ふたりで銀行強盗を続ける。美男美女のカップル強盗がボニーとクライドなのだ。
ふたりはマイケル・J・ポラードのガソリンスタンド店員モスと知り合い、盗難車の整備係として仲間に引き入れる。
やがて、ジーン・ハックマンとエステル・パーソンズのクライドの兄夫婦バックとブランチも強盗に加わり、バロウズギャングとしてマスコミに取り上げられ、有名になる。逃避行の途中、たまたま強盗団の人質になってしまう小市民がジーン・ワイルダーなのも愉快である。
結局、保守的で堅物のブランチのせいで、ボニーとクライドはテキサスレンジャーのために一九三四年、悲惨な最期を迎える。他のニューシネマ作品の多くも主人公の悲惨な最期で終わることが多いのは、やはり『俺たちに明日はない』を意識しているのだろう。
この映画を観た戎橋劇場は大阪の道頓堀川に架かる戎橋のすぐ脇にあった二本立ての名画座だった。
俺たちに明日はない/Bonnie and Clyde
1967 アメリカ/公開1968
監督:アーサー・ペン
出演:ウォーレン・ビーティ、フェイ・ダナウェイ、ジーン・ハックマン、マイケル・J・ポラード、エステル・パーソンズ、デンバー・パイル、ダブ・テイラー、エバンス・エバンス、ジーン・ワイルダー