シネコラム

第531回 アヒルと鴨のコインロッカー

第531回 アヒルと鴨のコインロッカー

平成二十三年一月(2011)
恵比寿 恵比寿ガーデンシネマ

 

 非常によくできた小説をわくわくしながら読み終わり、その後、映画化作品を観て、がっかりすることがある。小説はあんなに面白かったのに、どうしてこんなつまらない最低の映画になってしまうのだろう。そこまでひどくなくても、やはり原作に追いつかない映画というのはたくさんある。
 が、逆に見事に映画として成功している作品もあり、これはうれしい。
 伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』は、読み始めたら、引き込まれ、一気に読み終えた。小説ならではのびっくりするようなトリック、そのトリックについては詳しくは言えない。絶対にネタバレ厳禁のトリックだから。
 映画化されたことは知っていたが、なかなか観る機会がなかった。果たして映画化は可能なのだろうか。映画になったとして、あのトリックはどうなるのだろう。
 二〇一一年に恵比寿ガーデンシネマが休館する際、これまでに封切られた名作話題作の特集があり、ようやく映画『アヒルと鴨のコインロッカー』を観ることができた。
 なるほど、小説もうまかったが、映画もまたうまい。原作のトリックが損なわれずに巧みに映画化されていた。
 東京から仙台の大学に入学した新入生の椎名はアパートに引っ越して早々、隣の部屋の河崎から本屋襲撃を持ちかけられる。恋人をなくして落ち込んでいるブータン人の留学生ドルジのために広辞苑を盗むのが目的だと。椎名はいやおうなく巻き込まれていく。
 そこに語られるのが、ドルジとペットショップに勤める琴美との恋物語。河崎は琴美の元ボーイフレンドで、女好きのプレイボーイ。が、結局ドルジと友達になり、日本語を教える。町で繰り返される残忍で下劣な虫けらのごときちんぴらグループによるペット殺し事件と恋人たちの悲劇。そして、河崎と椎名の奇妙な友情にボブ・ディランの名曲が流れる。
 当時若手だった濱田岳瑛太。実に見事な役作り。

 

アヒルと鴨のコインロッカー
2007
監督:中村義洋
出演:濱田岳瑛太関めぐみ田村圭生、松田龍平、大塚寧々、関暁夫キムラ緑子なぎら健壱岡田将生平田薫

 

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