第530回 未来惑星ザルドス
昭和四十九年十月(1974)
大阪 梅田 OS劇場
『未来惑星ザルドス』を観たのは学生時代、大阪の梅田にあったOS劇場で、ここはシネラマを売り物にした巨大スクリーンの大劇場だった。
いきなり空を飛ぶ荒々しい石の顔。未来を描いたSFでありながら、宗教的なファンタジーの色合いが濃かった。
科学技術の進歩は人間の不老不死を可能にしたが、それはごく少数の特権階級に独占される。不死者たちは巨大なバリアに覆われた理想郷ボルテックスに住み着き、変化のない生活を三百年以上も続けている。不死の世界には生殖は不要で、子供は存在せず、永遠に時が止まっている。無気力に取りつかれた者はただ一日中、棒のように突っ立っているだけ。ボルテックスの秩序を乱す者は罰として加齢され、老人として生き続ける。
理想郷の外は文明の退化した獣人たちの世界。獣人たちはボルテックスから飛来する石像の頭部ザルドスを崇める。ザルドスは口から銃器を吐き出し、貢物の穀物を飲み込んでボルテックスへ飛び去る。獣人の中の選ばれた殺戮者たちがザルドスから得た銃で、外界の人口を調節している。
殺戮者のひとりゼッドが貢物の穀物に紛れてボルテックスに侵入する。不死者たちは獣人ゼッドを珍しがる。ゼッドの正体はボルテックスの不変に退屈した不死者の科学者アーサーによって遺伝学的に作られた突然変異種だった。ザルドスとオズの魔法使いの関連を示唆されたゼッドは欺瞞に満ちたボルテックスを終わらせる。
老化はするが死なない世界はガリバーが旅行した不死の国へのオマージュか。
ジョン・ブアマンの映画は、現実離れした比喩的なものが多い。私が封切りで観たのは『脱出』と『未来惑星ザルドス』だけで、それ以後の作品は二本立て二番館の世話になった。『エクソシスト2』は池袋文芸坐、『エクスカリバー』は大塚名画座、『エメラルドフォレスト』は新宿ローヤル、『戦場の小さな天使たち』は三鷹オスカー。町の名画座の充実している幸福な時代だったが、それは永遠には続かなかった。
未来惑星ザルドス/Zardoz
1974 アイルランド・アメリカ/公開1974
監督:ジョン・ブアマン
出演:ショーン・コネリー、シャーロット・ランプリング、セーラ・ケステルマン、ジョン・アルダートン、サリー・アン・ニュート、ナイオール・バギー