第516回 ラストマン・スタンディング
平成九年二月(1997)
日比谷 日比谷映画
派手な暴力描写で名高いウォルター・ヒル監督が黒澤明の『用心棒』をほぼそっくりそのまま、禁酒法時代のテキサスに置き換えてリメイクしたのが『ラストマン・スタンディング』である。セルジオ・レオーネの西部劇『荒野の用心棒』は有名だが、リメイクとしてはこちらが肌理細かい。
ブルース・ウィリスの流れ者が車で荒野を行く。二又の分かれ路で空のウイスキー瓶を回転させて、方向を決めるあたりからすでに黒澤の『用心棒』である。
寂れた町でイタリア系のストロッジとアイルランド系のドイル、ふた組のギャングが密造酒をめぐって対立しており、流れ者は因縁をつけてきたドイルの子分を撃ち殺し、ストロッジに自分を売り込む。ここで名を聞かれてスミスと名乗る。桑畑三十郎ならぬジョン・スミスと。
ストロッジの情婦をたらしこみ、ギャングたちをうまく操り両方から金をせしめるスミスだが、シカゴから帰ってきたドイル一家の凶悪なヒッキーが疑い深く、やがてドイルが囲っているメキシコ女性をスミスが逃がしたことを嗅ぎつける。悪党のくせに人助けをしたのが仇となるのだ。このとき、スミスを徹底的に痛めつけるのが手下の大男というところまで『用心棒』といっしょである。しかも完全なアメリカのギャング映画でもあるのだ。
三船敏郎の役どころがブルース・ウィリス。仲代達矢がクリストファー・ウォーケン。保安官がブルース・ダーン。
原作者のクレジットに菊島隆三と黒沢明の名が出ているのもうれしい。
『用心棒』の着想そのものはダシール・ハメットの『血の収穫』なので、禁酒法時代のギャングというのは、ハメットにも近い。
ラストマン・スタンディング/Last Man Standing
1996 アメリカ/公開1997
監督:ウォルター・ヒル
出演:ブルース・ウィリス、ブルース・ダーン、ウィリアム・サンダーソン、クリストファー・ウォーケン、デヴィッド・パトリック・ケリー、カリーナ・ロンバード、ネッド・アイゼンバーグ、アレクサンドラ・パワーズ、マイケル・インペリオリ、レスリー・マン、ケン・ジェンキンス