第492回 第十七捕虜収容所
令和元年八月(2019)
渋谷 シネマヴェーラ
戦争映画ではあるが、戦闘場面はなく、ビリー・ワイルダー監督らしいコメディ調で描かれた捕虜収容所のクリスマスストーリーになっている。
第二次大戦末期、ドイツ国内のドナウ川のほとりにある捕虜収容所。米軍の軍曹ばかりを収容する兵舎で、脱走が企てられ、実行に移される。地下に掘られた穴からふたりの捕虜が有刺鉄線の柵にたどりつき、外に抜け出したとたん、待ち伏せしていたドイツ兵に射殺される。捕虜の中に所長に通じるスパイがいて、脱走計画は筒抜けだったのではないか。
収容所内で便利屋のように世渡りするセフトンは脱走なんか無駄だと言い切り、ニヒルな態度で仲間たちをいらつかせる。酒を調達したり、賭場を開いたり、ロシアの女兵士たちが収容されている隣の兵舎を望遠鏡で覗かせたり、好き放題で稼ぐ。賄賂で懐柔したドイツ兵から優遇されているので、兵舎の仲間たちの間では評判が悪い。
ここに新しい捕虜として将校のダンバー中尉が入ってくる。ダンバーが爆薬輸送用のドイツ軍用列車を爆破したことを知り、捕虜たちは大喜び。するとたちまち、所長のシェルバッハがダンバーを拘束し、爆破事件について尋問を始める。
捕虜しか知らない軍用列車爆破が所長に知られたのはスパイのせいである。捕虜たちはスパイの疑いで日頃から嫌われ者のセフトンを袋叩きにする。が、セフトンがスパイでないことを知る人間がふたりいたのだ。ひとりはセフトン自身。もうひとりは本物のスパイ。
セフトンはいかにしてスパイの正体を暴くのか。そしてゲシュタポに引き渡されるダンバーを捕虜たちはいかにして救い出そうとするのか。
後の『大脱走』に通じるようなナチスの捕虜収容所映画である。
皮肉屋で汚く稼ぐセフトンを『サンセット大通り』で二枚目だったウィリアム・ホールデンが演じている。捕虜のひとりに『スパイ大作戦』のフェルプス君ことピーター・グレイブスも。
第十七捕虜収容所/Stalag 17
1953 アメリカ/公開1954
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ウィリアム・ホールデン、ドン・テイラー、オットー・プレミンジャー、ロバート・ストラウス、ハーヴェイ・レンベック、ネヴィル・ブランド、ピーター・グレイブス、シグ・ルーマン