シネコラム

第489回 戦場のピアニスト

第489回 戦場のピアニスト

平成十五年三月(2003)
渋谷 渋東シネタワー2

 ナチスドイツによるユダヤ人の迫害、大虐殺の事実は繰り返し映画化されているし、繰り返し語り継がれるべき題材である。
 さらに欲をいえば、シナリオが練られていて、演技がすばらしく、細部にわたって歴史がリアルに再現されていれば申し分ない。
 ポーランドの鬼才として注目され、ハリウッドに渡って『ローズマリーの赤ちゃん』『マクベス』『チャイナタウン』などを経て巨匠となったロマン・ポランスキー監督が描く『戦場のピアニスト』は、著名なピアニストであり作曲家であったウワディスワフ・シュピルマンの体験記を映画化したものだが、戦時下のワルシャワで少年時代を過ごしたユダヤポーランド人であるポランスキー自身の実体験をも重ね合わされた名作である。
 ワルシャワのラジオ局でピアノを演奏していたシュピルマンはドイツ軍の空襲により放送を中断させられる。ナチスの侵略が始まり、ユダヤ人たちはゲットーに押し込められ、やがて財産を没収されて、広場に集められる。強制収容所への移送である。
 ひとりの女性が将校に聞く。これからどこへ行くのですか。
 将校は黙って、銃を取り出しその女性の頭を撃ち抜く。余計な質問は許されないのだ。シュピルマンは家族とともに収容所行き輸送列車のある駅に向かって歩かされる。が、たまたま知り合いの警官に声をかけられ、ひとり行列から抜け出すのだ。
 戦時下での逃亡生活が始まる。支援者の手助けで隠れ家を転々とし、最後には音楽好きのドイツ人将校に匿われ、瓦礫の中で生き延びる。
 エンドロールの間、ずっと演奏されるピアノ。それが終り、ウワディスワフ・シュピルマンが客席に向かって頭を下げると、映画の中の客席から拍手と声援が送られ、映画館の客席と同化する。

 

戦場のピアニスト/The Pianist
2002 フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス/公開2003
監督:ロマン・ポランスキー
出演:エイドリアン・ブロディトーマス・クレッチマンフランク・フィンレイ、モーリン・リップマン、エド・ストッパード、ジェシカ・ケイト・マイヤー、ジュリア・レイナー、エミリア・フォックス、ヴァレンタイン・ペルカ、ルース・プラット

 

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