第462回 最後の決闘裁判
令和三年十月(2021)
立川 TOHOシネマズ立川立飛
ミステリアスな実録中世騎士物語である。
十四世紀末のフランス、ノルマンディーの騎士ジャン・ド・カルージュは留守中、屋敷で妻のマルグリットをかつての友ジャック・ル・グリに凌辱される。
領主のアランソン伯爵ピエールはル・グリを寵愛しており、訴えが退けられると判断したジャンは直接国王シャルル六世に直訴するが、ル・グリが無実を主張したため、決闘で決着をつけることとなる。神は正義に味方するので、勝者が正しいという理屈である。
勇猛果敢なジャン・ド・カルージュは城塞の長官の息子であり、戦にあけくれるが戦果は乏しく、領主の伯爵からは冷遇されている。戦場で命を救ったジャック・ル・グリと親友になるが、放蕩者の伯爵は無骨なジャンを嫌い、才気あるル・グリを優遇する。ジャンは大地主ド・ティボヴィルの娘、美しいマルグリットを妻に迎える。持参金の一部である土地を伯爵が接収し、しかもル・グリに与えたことを知り、国王に訴えるが却下され、さらにジャンの父の死後、長官の地位までル・グリに奪われる。ド・カルージュ家は経済的に苦しく、ジャンはイングランドに遠征し、戦果をあげて騎士に叙せられる。報奨金を受け取りにパリへ行った留守中に訪ねてきたル・グリに妻を犯され、国王に直訴し、決闘裁判となる。というのがジャン・ド・カルージュの回想である。
博識で才気煥発、伯爵から頼られ、女たちから愛される洒落者のジャック・ル・グリは心ならずも親友のジャンと疎遠になる。が、酒宴で出会ったジャンの妻マルグリットの美しさに心奪われ、文学の話題で言葉を交わし、彼女も自分に気があることを直感して、夫の留守中に屋敷を訪ね、想いを遂げた。王への直訴は筋違いというのがル・グリの視点。
さらに同じ物語がマルグリットの女性の視点で描かれる。真実はひとつであるはずだが、三者三様の立場で再現すると微妙に異なる。黒澤明監督『羅生門』の手法なのだ。
いよいよふたりの男が馬上で、槍で、剣で、命と名誉を賭けて戦う対決場面は手に汗握る凄まじさ。さすがリドリー・スコット監督、大迫力である。
最後の決闘裁判/The Last Duel
2021 アメリカ/公開2021
監督:リドリー・スコット
出演:マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマー、ベン・アフレック、ハリエット・ウォルター、アレックス・ロウザー、マートン・ソーカス