第436回 マーズ・アタック!
十九世紀末、H・G・ウェルズはSF小説『宇宙戦争』を発表した。タコ型の火星人が地球に飛来し、迎える要人を熱線で焼き殺し、地球を侵略しようとする。
オーソン・ウェルズはラジオドラマで『宇宙戦争』をリアルな生放送のごとき演出で流し、本気にしたリスナーの間でパニックが生じた。
二十世紀末、ティム・バートン監督のSF映画『マーズ・アタック!』が公開された。ウェルズの『宇宙戦争』のコメディ版というべきか。
火星から無数の空飛ぶ円盤が地球に向って押し寄せる。優れた科学技術を持つ知的生物なら、きっと友好的に違いないという宇宙学者の助言もむなしく、火星人たちは地球で殺戮を繰り広げる。下等動物である地球人を蔑み、嘲笑い、面白半分に人体実験や虐殺を行う火星人はまるでナチスの醜悪な戯画化のようである。
ほとんどB級漫画だが、最初のタイトルで円盤が規則的な群れを成して宇宙空間を飛ぶ場面からわくわくさせられる。
しかもこの超B級漫画のようなSFコメディにハリウッドの主演級大物スターがずらりと並ぶ。大統領とラスベガスの山師の二役がジャック・ニコルソン、大統領夫人がグレン・クローズ、山師の妻がアネット・ベニング、宇宙学者がピアース・ブロスナン、ニュースキャスターがサラ・ジェシカ・パーカーとマイケル・J・フォックス、将軍がロッド・スタイガー、ラスベガスの客がダニー・デヴィート、大統領令嬢がナタリー・ポートマン、トム・ジョーンズは本人の役。まだまだスターが出ているが、その多くが火星人にあっけなく殺される。こんな主演級の名優がこんな死に様とは。
大スターを大勢使って金をかけた、これはオチも含めて壮大なジョークなのである。
マーズ・アタック!/Mars Attacks!
1996 アメリカ/公開1997
監督:ティム・バートン
出演:ジャック・ニコルソン、グレン・クローズ、アネット・ベニング、ピアース・ブロスナン、ダニー・デヴィート、マーティン・ショート、サラ・ジェシカ・パーカー、マイケル・J・フォックス、ロッド・スタイガー、トム・ジョーンズ、ナタリー・ポートマン、ジム・ブラウン、ルーカス・ハース、リサ・マリー、シルヴィア・シドニー、パム・グリア、ジャック・ブラック、ジョー・ドン・ベイカー