第428回 明日に向って撃て
昭和四十七年十二月(1972)
大阪 堂島 大毎地下
一九六〇年代末からアメリカ映画界に新しいスタイルの作品が続々と現れた。自由を求め、社会からはみ出した若者が、古い体制の権力者あるいは権力の手先によって自滅させられる。ベトナム戦争とヒッピーと学生運動の六〇年代末から七〇年代初頭。これらの作品はひとくくりにニューシネマと呼ばれ、代表的な『俺たちに明日はない』や『イージーライダー』は今では古典となっている。
実在した西部の無法者ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドを主人公にした『明日に向って撃て』のタイトルは、おそらくボニーとクライドの『俺たちに明日はない』を意識したものだろう。
出だしのクレジットでいきなり古い無声映画の西部劇が流れる。そして自転車のセールスマン。古き開拓時代は終わりを告げ、映画や自転車が実用化し始めた新時代の到来である。
ブッチとサンダンスは仲間を集めて相変わらず銀行強盗や列車強盗をくりかえし、とうとう鉄道会社の雇ったピンカートン探偵社に執拗に追われることになる。
うまく逃げおおせたら、ボリビアに行こう。
なんとか追手をかわしたふたりは、サンダンスの恋人エッタも同行して南米ボリビアへと逃れる。だが、ここでも悪事が止められず、エッタが去ると、ふたりは再び強盗稼業に手を出して、最後は総出の警官隊や軍隊に包囲される。
ここを抜け出せたら、次はオーストラリアへ行こう。
バート・バカラックの挿入歌『雨に濡れても』を背景に、ブッチとエッタが新時代の象徴のような自転車で風を切る場面は心に残る。
ジョージ・ロイ・ヒル監督の次回作『スティング』は、禁酒法時代の詐欺師の物語で、再びニューマンとレッドフォードが主演した。
明日に向って撃て/Butch Cassidy and the Sundance Kid
1969 アメリカ/公開1970
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
出演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス