シネコラム

第414回 シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい

第414回 シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい

令和二年十二月(2020)
有楽町 ヒューマントラストシネマ

 

 十九世紀末のパリ、若き詩人エドモン・ロスタンは二年前にサラ・ベルナールのために書いた詩劇が失敗に終わり、次の仕事がなく困窮していた。
 そこへ突如、ベルナールの紹介で人気喜劇俳優コンスタン・コクランのための喜劇を書くことになる。
 ぱっと思いついた主人公は三銃士と同時代の実在人物シラノ・ド・ベルジュラック。だが、三週間後に初日というのに、まだ一行も書けていない。
 衣装係ジャンヌに惚れた親友の俳優レオのために、ロマンチックな言葉を指南し、恋文を代筆して、劇中のシラノとクリスチャンとロクサーヌの関係を思いつく。
 レオそっちのけで、代筆の恋文を書き続け、ジャンヌからの返事に戯曲の着想を次々と得ていく。作家にはミューズが必要なのだ。
 そして、ロスタンの周囲で起きたことが、そのまま『シラノ・ド・ベルジュラック』の戯曲として肉付けされる。
 パリの娼館でロスタンと出会うロシア人アントンの一言がラストシーンの閃きとなったり。このロシア人、友人からチェーホフと呼ばれていた。
 短期間での執筆はなかなか進まず、借金まみれのコクランは劇場から追い立てを食らっており、敵役に抜擢されたコクランの息子は素人以下の大根役者。これでほんとうに初日の幕が開くのだろうか。
 もちろん、エドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』は演劇史に残る傑作として、今なお上演され続け、何度も映画化されている。同時代の喜劇作家ジョルジュ・フェドーも絶賛するほどに。
 エンドロールにコクラン、ジャン・マレーホセ・フェラー、ドパルデューなど歴代のシラノ映画名場面が流れるので、途中退出はもったいない。

 

シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい/Edmond
2018 フランス・ベルギー/公開2020
監督:アレクシス・ミシャリク
出演:トマ・ソリベレ、オリビエ・グルメ、マティルド・セニエ、トム・レーブ、リュシー・ブジュナー、アリス・ド・ランクザン、イゴール・ゴッテスマン、クレマンティーヌ・セラリエ、ドミニク・ピノン、シモン・アブカリアン