第398回 殺人狂時代(1967)
平成二年十二月(1990)
池袋 文芸坐2
池袋文芸坐2での岡本喜八特集では、ずいぶんといろんな喜八映画を堪能したが、『ああ爆弾』と並んで忘れられないのが仲代達矢主演の『殺人狂時代』で、これもまた客席は爆笑の渦であった。
とある精神病院、天本英世ふんする院長はかつてドイツへ留学していたことがあり、当時の友人でゲシュタポの生き残りであるドイツ人の訪問を受ける。ここは表向きは精神病院だが、患者を殺人マシンに育成して、殺しを請け負う犯罪組織「人口調節審議会」なのである。院長はおそらくドイツ時代に生体実験などに手を染めていたのだろう。
元ゲシュタポは手元の電話帳から適当に三人の名前を選び出し、三日以内に殺せるかどうかをテストする。間もなく二人の死体が病院に運び込まれるが、もうひとりがなかなか仕留められない。
場面は変わって薄汚いアパート。ほとんど壊れかけた中古車に乗ってひとりの風采のあがらない三十男が帰宅する。牛乳瓶の底のような眼鏡、よれよれの背広、ぼさぼさの頭髪に、むさ苦しい無精髭。大学で犯罪心理学を教える助教授。ふんするは仲代達矢。
助教授は極度の近眼で、部屋に「人口調節審議会」から差し向けられた殺し屋がいるのにも気づかず、インスタントラーメンを食べようとして、ぬらりくらり、偶然にも殺し屋を殺してしまうことに。
助教授はたまたま知り合った団玲子の婦人記者と砂塚秀夫のチンピラをともなって、次から次へと襲いかかる殺し屋たちを逆にやっつけ、ついに、本拠地の病院へ乗り込み、院長と対決。
若い頃の仲代のおとぼけぶりに大笑い。黒澤の『乱』あたりから、目を剥いてのシリアスな大芝居ばかりが目立つようになったが、この『殺人狂時代』の軽妙な演技、コメディアンとしても最高だった。