第397回 ああ爆弾
平成二年十二月(1990)
池袋 文芸坐2
新文芸坐に建て替わる以前の池袋の文芸坐には、実に足繁く通ったものである。当時は三館あって、主に洋画の話題作二本立てが一階の文芸坐、古い日本映画などの特集上映が地下の文芸地下、そして演劇や落語やちょっと変わった映画をやるのが別棟の文芸坐ルピリエだった。
文芸地下は文芸坐2と名を変えたが、ここで観た岡本喜八特集は忘れがたい。全作品の日替わり上映で連日超満員、とても全部は無理だったが、喜八作品、かなりの数を観ることができた。
中でももっとも異色なのが、伊藤雄之助主演の『ああ爆弾』で、実に馬鹿馬鹿しいというか、悪ふざけもここまで徹底的に真剣にやれば素晴らしい名作である。
いきなり、刑務所で出所間際のやくざの親分、大名大作が能狂言風にせりふを謡う。立ち見まで出ている満員の客席がこれには大爆笑であった。最初に笑わせてくれたので、あとはもう次から次へと笑える場面が続く。
いざ出所してみると、留守中に組は乗っ取られ、女房と息子は裏長屋で貧しい暮らしぶり。新しい親分は社長を名乗って、市会議員に立候補中である。大作は刑務所で知り合ったチンピラ太郎の助けを借りて爆弾を作り、悪徳社長に復讐しようとする。
が、万年筆に仕掛けた爆弾がなかなか社長の手に渡らず、結局、まわりまわって自分の息子の手に。はらはらどきどきのギャグが続く。
親分大作に伊藤雄之助、チンピラ太郎に砂塚秀夫、大作の留守中に新興宗教にのめりこんで太鼓を叩き続ける女房に越路吹雪、悪徳社長に中谷一郎、銀行支店長が有島一郎といった配役も絶妙である。
随所に歌があり、ミュージカルとも言える作品なのだ。原作がコーネル・ウールリッチというのも驚きであった。
ああ爆弾
1964
監督:岡本喜八
出演:伊藤雄之助、越路吹雪、砂塚秀夫、中谷一郎、沢村いき雄、北あけみ、二瓶正也、天本英世、重山規子、有島一郎、桜井浩子、高橋正、本間文子、長谷川弘、丘照美