第389回 ゴシック
昭和六十三年五月(1988)
新宿歌舞伎町 シネマスクエアとうきゅう
怪物を創ったのはヴィクター・フランケンシュタインだが、そのフランケンシュタインを創造したのはうら若き乙女であった。という秘話を描いたのがケン・ラッセル監督の『ゴシック』である。
十九世紀初頭、スイスのレマン湖畔。英国貴族で詩人のバイロンが、詩人仲間のパーシー・ビッシュ・シェリーをともない、山荘で遊ぶ。シェリーの愛人でまだ十代のメアリ・ゴドウィン、その義妹でバイロンの愛人でもあるクレアが同伴し、バイロンの主治医のポリドリもつき従う。
バイロンが提案する。みんなで怪談を創ろうじゃないか。
そこで生まれたのがメアリの人造人間の物語で、メアリはその後、シェリー夫人となり、『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を出版する。
芸術と退廃と貴族趣味、そしてエロスと恐怖。当時のヨーロッパは『会議は踊る』の時代であり、ちなみにわが国の江戸は文化文政の享楽時代であった。
配役は豪華で、バイロンがガブリエル・バーン、シェリーがジュリアン・サンズ、メアリがナターシャ・リチャードスン、クレアがミリアム・シル、そしてポリドリにティモシー・スポール。
上映されたのは新宿歌舞伎町のシネマスクエアとうきゅう。この映画館はアート系単館ミニシアターのはしりで、館独自でシネマスクエアマガジンという雑誌タイプのパンフレットを発行していて、これを集めるのも楽しみだった。
もう一本、スペイン映画『幻の城』も同じ題材で、ヒュー・グラントがバイロンで主演だったが、あまり印象に残らず、『ゴシック』ほどは話題にならなかったと思う。
なお、ブライアン・W・オールディスのSF小説『解放されたフランケンシュタイン』はロジャー・コーマンによって映画化されたが劇場未公開のためVHSで観た。タイトルはシェリーの詩劇『鎖を解かれたプロメテウス』をもじったもの。
ゴシック/Gothic
1987 イギリス/公開1988
監督:ケン・ラッセル
出演:ガブリエル・バーン、ジュリアン・サンズ、ナターシャ・リチャードスン、ミリアム・シル、ティモシー・スポール